論文集抄録
〈Vol.61 No.3(2025年3月)〉

タイトル一覧
[第11回制御部門マルチシンポジウム論文特集号]

[論 文]


[論 文]

■ 物流用ドローンのための多目的ダイクストラアルゴリズムを用いた経路計画

横浜国立大学・細井 翔太, 小林 一穂, 小林 星平, 山下 皓大, 樋口 丈浩

近年,クアッドロータ型ドローンを用いた物資輸送が注目されている.しかし,ドローン輸送の欠点として,バッテリー容量の制限やペイロードが小さいことによる,長距離の物資輸送が困難であることが挙げられる.そこで本稿では,途中でのバッテリー給電を考慮した経路計画法の提案を行う.本手法では,飛行距離以外に風向や給電所の経由回数を考慮することが可能となっている.輸送開始地点から目的地点までの輸送コストを最小にするような経路の計画のために,多目的ダイクストラアルゴリズムを適用している.本稿では,風を含めた配達環境のモデルに対して提案手法を適用し,飛行距離,風向の影響,給電所の経由回数を考慮した物資輸送のための適した経路を示す.


 

■ 再帰型ニューラルネットワークの安定性判別のための圧縮モデルの構築と入出力特性の評価

九州大学・湯野 剛史, 福地 和真, 蛯原 義雄

本論文では,連続時間再帰型ニューラルネットワーク (RNN) を対象として,その非線形活性化関数の個数を削減するようなモデル圧縮手法を提案する.
主結果として,得られる圧縮RNNの内部安定性からもとのRNNの内部安定性を結論付けられる十分条件を示す.
さらに,圧縮前後のRNNの出力差の上界を評価する式を導出したうえで,その上界をなるべく低減するような最適化問題を定式化し,それを半正定値計画問題へ緩和する.
その解析の結果から,本手法で得られる圧縮RNNはもとのRNNとの出力差が小さくなる傾向にあることを示す.
提案された手法は数値例によって検証される.


 

■ 多入力多出力むだ時間システムの推定と離散時間状態予測制御

明治大学・申 秀行, 阿部 直人

本論文では多入力むだ時間システムに対するモデル推定と制御方法を提案する.1入力のむだ時間システムに対しては推定したモデルの次数に着目することで,対象に存在するむだ時間を推定する方法がすでに提案されている.加えて1入力のむだ時間システムに対する制御としては未来の状態を予測した仮想的なシステムに対して集中定数系に対する制御を適用する状態予測制御が確立されている.本論文では1入力むだ時間システムに対するむだ時間推定の手法を多入力のむだ時間システムに拡張する.また制御則に関しては状態予測制御を多入力に拡張する際に生じる問題を述べた後に,その解決策を提案する.最後にシミュレーションにて提案した手法を検証する.


 

■Informed RRT*アルゴリズムを用いた月極域における水探査のための経路計画手法

大阪大学・保津 明範, 橋本 和宗, 高井 重昌

月の極域には永久影と呼ばれる太陽光が常に当たらない場所が存在し,その場所では水の存在可能性が示唆されている.宇宙開発において水は飲料や燃料等に使用可能であるので,具体的な水の量や分布を調査したい.
調査にあたりソーラーパネルを動力にした探査機を用いる.永久影内では太陽光が当たらないため,探査機は有限時間内に永久影を効率良く探査しつつ太陽光があたる領域を目指す必要がある.また,時間とともに変化する日照領域を考慮しできるだけ効率的に永久影領域内の探査を行う必要がある.
上記二点の課題に対して,Informed RRT*と呼ばれる経路生成手法を用いて生成した経路を基に探査機が
移動し,月面での土壌中での水と中性子の関係性より,経路上の中性子の検出から水の存在確率をベイズの式で更新することで永久影内の水領域を導き出す.


 

■ ニューラルネットワークとサポートベクタマシンによるディーゼルエンジン吸排気系の特性変化検出

 宇都宮大学・平田 光男, 田代 堅聖, 鈴木 雅康, 日野自動車・仲田 勇人

ディーゼルエンジンにおいて,ターボチャージャや排気ガス再循環(EGR)システムは,燃焼効率を向上させるために不可欠な装置である.これらの特性に変化が生じると,所望の燃焼効率や排気エミッション性能が得られなくなる.そのため,特性の変化を即座に検知し,報告する仕組みが求められている.そこで,本研究では,既存のセンサ情報からニューラルネットワーク(NN)とサポートベクターマシン(SVM)を用いて特性変化だけでなく変化箇所を特定する方法を提案した.具体的には,まず,スロットル開度やEGRバルブ開度から特性変化の無い通常時のエンジンのセンサ信号や内部信号を推定するNNを構築した.エンジンに特性変化が生じると,それら推定値と実際の値に誤差が生じる.そこで,誤差信号から特性変化箇所を特定するためのSVMを構築した.最後に,ディーゼルエンジンの動作を詳細に再現できるエンジンシミュレータを用いたシミュレーションにより,提案手法の有効性を示した.


 

■ 時変非対称バリアリアプノフ関数を視野角制約に用いた無人航空機の経路角指定の垂直着陸誘導について

防衛大学校・林 雄亮, 山崎 武志, 高野 博行, 所属なし・山口 功

比例航法に基づく誘導則は,航空機,船舶,車両などの移動体の誘導問題において研究されている.その中には目標点への会合時に角度指定可能なものがある.近年運用が盛んなドローンなどの無人航空機においても,カメラ画像等のセンサを用いた誘導が想定される.しかし,センサの視線方向と無人航空機の進行方向は必ずしも一致せず,センサの視野内に目標を捉えつつ誘導するには機体の姿勢も考慮する必要がある.前述の比例航法に基づく角度指定の誘導則の中には,進行方向を基準としてある角度の範囲内に目標を捉えながら誘導する方法は存在するものの,無人航空機のセンサ方向と目視線方向の変化に対応して変化する姿勢角制約までを考慮した垂直着陸の誘導問題に応用した事例は著者の知る限り存在しない.
本報告では,小型マルチコプタ型無人航空機の剛体モデルに対して,誘導系には角度指定の誘導則を,姿勢制御系には,前述の変動する姿勢角制約に対して,時変非対称バリアリアプノフ関数をそれぞれ用いた着陸誘導制御法を提案し,数値シミュレーションによりその有用性を検証する.


 

■ 連続系深層学習Neural ODEによる軌道制御則へのReservoir Computingの適用

宇宙航空研究開発機構・植田 聡史,九州大学・小川 秀朗

著者らは先行研究において, 従来的な宇宙機の誘導制御方式であるImplicit guidanceやExplicit guidanceの課題を解決するための制御方式として,瞬時の位置速度に関する軌道状態量から直接的に制御量を生成し,境界条件を満足する軌道に沿った飛行を可能にする,Neural ordinary differential equation (ODE)に基づく軌道制御則を提案した.本研究では,Reservoir computingの考え方を適用することで,従来のNeural ODEに基づく軌道制御則における計算コストおよび最適な遷移時間の求解に関する課題を解決する.Neural ODEによる軌道制御則の中間層を学習対象から除外し,制御則の構造を維持しながら最適化するパラメータ数を削減することで,学習計算コスト削減と汎用的非線形最適化アルゴリズムの適用を可能とした.この機能拡張により,制御則設計に加えてミッション設計の最適化が可能となる.本稿では提案手法を地球低軌道におけるランデブ軌道制御則に適用し,Neural ODEに基づく軌道制御則とReservoir computingに基づく軌道制御則の数値シミュレーション結果を比較評価することで,提案手法の有効性を示した.


 

■ Adaptive CBFを用いたCAVの階層型制御

慶應義塾大学・中井 優太, 滑川 徹

本研究は,CAV(コネクテッド自動運転車)におけるモデル予測制御と制御バリア関数を用いた階層制御手法を提案する.上層にモデル予測制御,下層に制御バリア関数を用いることで,先行車の行動が予測できない環境下でも安全性を確保しつつ,燃料消費を抑える制御を実現することを目指す.その際,実行可能性向上を目的としたAdaptive CBFを用いることで,下層の実行可能性を向上させることを目指した.モデル予測制御を用いる上層は先行車の挙動予測に基づき予防安全的な行動をとり,スラック変数を用いて実行可能性を確保し,Adaptive CBFを用いた下層は,最終的な安全性を確保する.最後に先行研究と比較し,提案手法の有効性をシミュレーションにより示す.


 

■ 状態フィードバックサーボ系における目標応答伝達関数を用いないデータ駆動制御とその実験検証

電気通信大学・川村 智仁, 金子 修

する.ここで提案する手法は,他のデータ駆動手法にみられるような,評価関数を最小化させるために用いられる目標伝達関数モデルを必要としない.その代わりとして入力に制約を設けることで,その制約内で速応性の高い応答を得る方法である.そのために、擬似参照信号の活用に基づくデータ駆動予測により得られたデータから閉ループ特性を予測し,制約内で最良の応答を得るためのオフライン最適化を行う.そしてこの手法の有用性について実験例を用いて検証する.


 

■ ある閉ループ部分空間同定法における (B,D) 行列の推定について

大阪工業大学・外村 知也, 奥 宏史, 徳島大学・池田 建司

本論文は,MOESP型閉ループ部分空間同定法(CL-MOESP)の状態空間実現の段階における,係数行列(B,D) を推定する計算方法について検討する.本研究の主な貢献は次の2点である.一つ目は、CL-MOESP法における同定モデルの係数行列のうち、(B,D)行列の推定精度を向上させたことである.CL-MOESP法の同定手順と,開ループに対する補助変数を用いた同定法であるPI-, PO-MOESP法の同定手順と比べると,両者の間に一定の類似性が見られる.その点に注目して,開ループ部分空間同定法の池田のアルゴリズムに使われた斜交射影の手法をCL-MOESP法に適用した新しいアルゴリズムを提案した.二つ目は拡大可観測性行列の誤差解析を開ループ部分空間同定法に関する池田の手順に倣って実施し,それを用いて(B,D)行列を推定する過程に生じる行列入出力方程式から導出される誤差項の収束性を示した.最後に,提案手法の有効性を検証するためにモンテカルロ法による数値シミュレーションを行った.その結果,提案法の推定値が従来法に比べ,推定誤差の平均値が小さいことが確認された.


 

■ 2次元LiDAR制御バリア関数による衝突回避ヒューマンアシスト制御

清水建設・木村 駿介, 西本 昂樹

近年,移動ロボットの社会実装が盛んに行われている.これらのロボットは,自律走行のためにLiDAR(Light Detection And Ranging)を搭載されている場合が多く,このLiDARは周囲の物体との衝突回避を実現するためにも使用される.特に,人間がロボットを遠隔操作する場合,人間からの入力指令値をできるだけ反映しつつ,最小限のアシスト入力で衝突回避を実現することが求められる.
本稿では,移動ロボットの衝突回避を実現するために,制御バリア関数によるヒューマンアシスト制御則を導入する.本研究の特徴として,2次元LiDARから得られる周囲の物体との距離とロボットの形状を状態変数とする新しいモデルを提案する.このモデルに基づいて設計された衝突回避アシスト制御則の有効性を数値シミュレーションにより示す.


 

■ 検出マップを用いた複数ターゲットの分散協調探索

慶應義塾大学・小林 穂乃佳, 滑川 徹

本研究では,検出マップを用いた2次元空間における複数ターゲットの分散探索手法を提案する.提案する探索手法は,計算負荷が小さく,大域的な探索が可能であり,耐故障性に強いなどの利点を持つ.具体的には,各探索エージェントは,自身の探索によるターゲット検出履歴を検出マップとして他のエージェントと共有し,このマップに基づいて作成されるポテンシャル場の勾配に応じて制御されるため,分散的かつ効率的な探索活動が可能となる.本論文の貢献は,従来の探索手法を分散させることで柔軟性を向上させた点にある.最後に,シミュレーション検証により,提案手法の有効性を確認した.


 

■ スペクトルオブザーバを用いた脳波の高速な特徴抽出方法の検討

東京理科大学・村上 円, 中村 文一

脳の状態を計測,推定することで機器の制御を行うブレインコンピュータインタフェース(BCI)の研究が盛んに行われている.脳波BCIにおいて,脳波(EEG)の周波数領域の時間変化を抽出することが重要である.特にリアルタイムBCIにおいては,バンドパスフィルタ(BPF)に基づく特徴抽出が依然として重要な技術である.しかし,主要なEEG成分が低周波かつ狭帯域であるため,BPFの応答遅延は無視できない.そこで,既知の周波数の正弦波の組み合わせとしてEEG信号を分解するスペクトルオブザーバを提案する.まず,スペクトルオブザーバを定常カルマンフィルタとして実装した.次に,単純な信号に対する応答速度を調査し,提案手法がBPFと比較して応答時間を約0.1秒短縮できることを確認した.最後に,提案手法がEEGの生データからBPFと同等の精度で特徴抽出を実現することを検証した.