論文集抄録
〈Vol.61  No.2(2025年2月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ Data Informativityにおけるモード決定

電気通信大学・太中 裕貴, 金子 修

データ駆動型制御のひとつのアプローチに Data Informativity に基づく方法が提案され ている. このアプローチは, データに整合するシステムが所望の性質を満たすという Data Informatibityの考え方に基づいて定式化されている. Data Informativityの枠組みに おいて, 制御器を設計する際の前提となるデータ条件を求めるといった解析問題を主 要な問題の一つとしてあつかう.  解析問題では, 動特性の次数(実際のシステムの次元 )とデータの次元(データが定義された空間の次元)が等しいことを前提としている. こ のため, データのサイズが動特性の次数と異なる場合にData Informativeの解析を適用 することができない. 本報告では, Data Informativityにおける解析問題に関し, 動特性の 次数とデータの次元が等しいという条件を課さずに, モード (極およびその重複度) が 同定できるためのデータの条件を求める問題を取り上げる. モデルベースド制御にお いて理論的に整理された多項式表現の方法をdata informativity approachの中で取り入 れ, システムのモードが一意に定まるためのデータの条件を導出する.


 

■ 切り換えシステムを用いた1型糖尿病患者のグルコース-インスリン動態モデル

富山大学・三輪 雄太, 平田 研二,Tam W .Nguyen, 早稲田大学・和佐 泰明, 内田 健康

本稿では, 1 型糖尿病患者を対象としたグルコース-インスリン動態モデルとして, 線形切り換えモデル, 双線形切り換えモデルの二つの切り換えシステムを提案する. ここで切り換えシステムの応答に大きな影響を与える切り換え点の値は, 患者毎の代謝パラメータにより決定される. 提案する切り換えモデルによる応答の精度は, 臨床試験前段階での動物実験の代替として米国食品医薬品局の承認を受けている UVA / Padova モデルによる応答との比較により検証する.


 

■ 不確かさを有する未知線形システムのデータ駆動型量子化制御

東京科学大学・高木 伊織, 芝浦工業大学・Ahmet Cetinkaya, 東京大学・石井 秀明

本論文では,不確かさを有する未知離散時間線形システムに対する量子化安定化手法を提案する.先行研究では,直接データ駆動制御手法を用いた未知線形システムに対する最も粗い対数型量子化器設計が与えられている.しかし,現実の線形システムでは ,環境の変化
や経年変化によるシステムパラメータの摂動により,閉ループ系が不安定になる可能性がある.そこで本論文では,先行研究で示されている不確かさを有する線形システムのための対数量子化器設計を直接データ駆動型手法に拡張し,取得されたシステムデータには反映
されていない可能性のある不確かさを考慮したロバストな量子化器設計法を与える.数値シミュレーションにより,本手法の有効性を示す.


 

■フォワーディング設計におけるデータとモデルの情報を用いた安定多様体の近似手法

名古屋大学・伊藤 黎, 三田 大智, 椿野 大輔

本論文では,非線形フィードバック制御則設計法のフォワーディングによる設計に際して必要な安定多様体を近似的に取得する手法を提案する.フォワーディング設計により得られる制御則は,システムの安定多様体を定める関数とその偏導関数を陽に用いて構成される.しかし,システムの非線形性に起因して,安定多様体を解析的に得ることは一般に困難である.著者らのグループでは,先行研究として,これを定める関数をデータ駆動型アプローチで近似する手法を提案しているが,その手法ではその偏導関数までの近似を考慮することはできない.提案手法では,偏導関数の近似を考慮するため,関数の回帰手法にニューラルネットワークを採用し,学習に用いる損失関数を Physics-Informed Neural Networks の考え方に基づき定義する.損失関数には訓練データを学習するための損失項だけでなく,安定多様体を特徴づける微分方程式を学習するための損失項を組み込む.また,提案する損失関数の勾配の系統的な計算式についても導出する.提案手法をクアッドロータの平面運動の入力制約付き安定化問題に適用し,数値シミュレーション結果より,その有効性を確認した.