Vol.60,No.10
論文集抄録
〈Vol.60 No.10(2024年10月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 欠陥の向きを考慮してサブバンド分割したガボールフィルタを用いたテクスチャ解析による鋼板表面欠陥検出技術
- ■ 仮想環境と実環境を融合しリアリティギャップを体験させる強化学習ロボット教材の開発
- ■ 意思決定主体間の関係性に着目した社会シミュレーションにおけるマルチスケールモデリングの提案
- ■ 階層的時間軸変換を用いた二輪移動体の軌道追従制御
[論 文]
■ 欠陥の向きを考慮してサブバンド分割したガボールフィルタを用いたテクスチャ解析による鋼板表面欠陥検出技術
JFEスチール・梅垣 嘉之,腰原 敬弘,剱持 光俊
欠陥の向きを考慮したガボールフィルタを用いたテクスチャ解析技術による鋼板製品の表面欠陥を検出する技術を提案する.本技術は従来法では検出が困難であった検査画像上でSN比が低い欠陥の検出を可能とする.本技術では,複数のスケールと方向を有するガボールフィルタ群によりテクスチャ特徴が抽出される.抽出したテクスチャ特徴の統計解析により,欠陥は統計的に異常な特徴を持つ画素として検出される.テクスチャ特徴の異常度はマハラノビス距離によって評価される.本技術では,鋼板製品に多く発生する鋼板の長手方向に延びる線状欠陥に対する感度を改善するためにガボールフィルタ処理に欠陥の向きに適応させたサブバンド分割を導入する.亜鉛鍍金鋼板の実際の欠陥に対して本技術を適用した実験を行った結果,サブバンド分割を行わない場合と比較して検出感度が改善されることが確認できた.
■ 仮想環境と実環境を融合しリアリティギャップを体験させる強化学習ロボット教材の開発
日本大学・和田 将太,諏訪 晃也,柳澤 一機
本稿では,機械工学科の学生を対象に,強化学習を用いたライントレース型ロボット教材の開発とその有効性の評価を行った.
現在,AI教材や強化学習教材の多くはシミュレーションに基づくものであるが,シミュレーションだけでなく,実環境に適応した学習ができる教材が重要である.
本研究では,ライントレースロボットを題材とし,仮想環境と実環境を融合させ,強化学習を使ってロボットを制御する教材を提案した.
仮想環境にて,強化学習における状態,行動,報酬の概念を学び,Q学習の理解を深め,仮想環境で学習した内容を実環境に適用することで,仮想環境と実環境のリアリティギャップについて学ぶことのできる教材を開発した.
さらに,開発した教材を用いて授業を行い,有効性の検証を行った.講義後のアンケートを分析した結果,開発した教材がリアリティギャップの理解促進に有効であることを確認した.
■ 意思決定主体間の関係性に着目した社会シミュレーションにおけるマルチスケールモデリングの提案
フューチャーアーキテクト・清水 岳,神戸大学・貝原 俊也,
國領 大介,藤井 信忠,早稲田大学・渡邉 るりこ
多様な意思決定主体から階層的に構成される社会システムにおいて,様々なシステムが複合的に関係していることから合意形成が複雑化しており,情報技術による意思決定支援が求められている.本論文で着目する社会シミュレーションにおいては,マルチステークホルダ・プロセスの概念に基づき多様なステークホルダの意思を反映可能なモデルが求められる.しかし従来のモデリング手法は,それぞれのレベルで独立して適用されているため,システム全体のマクロ的な評価と詳細部分のミクロ的な評価を両立することが困難である.そこで本論文では,各システム構成要素の時空間レベルに適したモデル化が可能なマルチスケールモデリングを提案する.具体的には,社会システムに混在する意思決定主体を整理し適切な時空間スケールで意思決定モデルを構築した後,それらの制約関係となる行動規範と社会全体に共有される社会意識という意思決定主体間における2種類の関係性に基づきそれらを統合する手法を提案する.ケーススタディとしてCOVID-19施策に対して提案手法を適用し,提案するモデル構造がCOVID-19に関するステークホルダの意思決定を表現できることを計算機実験により検証する.
東京理科大学・冨沢 汐梨,中村 文一
軌道追従制御は自動運転の実現において重要な技術である.
しかしながら,システムの目標軌道への収束特性は, 目標速度に大きく依存しているという問題がある.そこで本論文では,階層的な時間軸変換を用いることで,目標速度に依存しない収束経路を有する軌道追従制御則の設計法を提案する.提案する制御則は,任意の目標軌道に対して,異なる目標速度においても同一の収束経路を有することができるため,追従性能の向上が期待できる.最後に,二輪移動体を用いたコンピュータシミュレーションにより,提案法の有効性を示す.