Vol.53,No.5
論文集抄録
〈Vol.53 No.5(2017年5月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 人間の動作計測精度向上を目的とした変動相補フィルタ
- ■ 結合周期入力制御系の相互引き込み現象と同期パターン制御-2または3結合周期入力制御系の場合-
- ■ 並進回転運動変換機構を用いた月惑星着陸機の転倒抑制
- ■ ゴムの非対称配置による足首機構を利用した高効率2足歩行
[論 文]
北海道大学・宮島 沙織,田中 孝之,日下 聖
近年,慣性センサを用いた動作計測が様々な分野で使用されている.センサを用いた動作計測において,複数種類のセンサ出力を組み合わせ,各センサの短所を補う手法の一つに相補フィルタがある.低い計算コストで高い計測精度を実現できるため,ウェアラブルデバイスなどで広く使用されている.人間の動作を計測対象とする場合,その動作は多様な速度や周波数を含むと考えられる.しかし,相補フィルタでは足し合わせる周波数帯が固定されているため,想定範囲内の周波数動作にしか対応できない.そこで,被験者の動作速度に応じて相補フィルタの係数が変動するよう,シグモイド関数を用いて係数を設計した.この係数変動により,足し合わせる周波数帯を動作速度に適応させることができ,不規則に動作周期が変化する人間の動作に対応した計測が可能となる.また,動作計測実験を行い,提案手法による計測精度向上を確認した.
■ 結合周期入力制御系の相互引き込み現象と同期パターン制御-2または3結合周期入力制御系の場合-
室蘭工業大学・梶原 秀一,花島 直彦,青柳 学
著者らはこれまでに,強制引き込み現象を利用してシステムのエネルギーを制御する周期入力制御法を提案してきた.さらに,周期入力制御法によりエネルギー制御されているシステム(周期入力制御系)に周期的な外力を加えると強制引き込み現象が生じることを明らかにしてきた.本論文では,周期入力制御系を相互に結合した結合周期入力制御系において相互引き込み現象が起きることを示し,それらの結合状態を切り替えることにより同期パターンを制御できることを示す.はじめに,周期入力制御系を2つまたは3つ相互に結合した結合周期入力制御系において相互引き込み現象が起きる条件および同期パターンを解析する.次に我々が提案している同期パターン制御法を結合周期入力制御系に適用し,2結合周期入力制御系では同相または逆相で制御系を同期できること,3結合周期入力制御系では,同相または3相交流のような同期モードに制御できることを示す.本手法は強制引き込みを利用して目標同期パターン近傍に周期運動を誘導した後,システム間の結合状態を切り替え,相互引き込みを利用してシステムを目標同期パターンに収束させる.最後に,本手法の有効性を実機により確認した結果について示す.
名古屋大学・前田 孝雄,原 進,尾崎 岳,松井 慎太郎,
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所・大槻 真嗣
月惑星表面の探査において,月程度以上の重力を有する天体への着陸では,探査対象に直接アクセスするため探査機に着陸システムを備えることが必須となる.将来のより科学的な成果が求められる探査においては,これまで以上に急峻な地形,例えばクレータ中央丘や縦孔内など,傾斜や障害物,段差が数多く存在する地形への着陸が求められてくる.そのような地形においては,従来の着陸機構だけでは安全に着陸できない可能性が考えられ,最も大きなリスクは探査機の転倒である.本研究では,着陸時の運動エネルギを散逸させるのではなく,並進回転運動変換を用いて,転倒抑制のための支持脚展開や,リアクションホイールのトルクへと変換する.着陸時の各脚に作用する力の差に着目し,横方向速度成分に対する転倒抑制や,傾斜上で転倒を抑制するトルク発生に再利用する.本研究では変換機構の提案と,動力学シミュレーションによる解析により,その有効性を示す.
九州工業大学・花澤 雄太,浅野 文彦
本研究は,底屈が容易でありかつ高効率な2足歩行を実現するための足首機構を提案する.先行研究において,足首に固定された引張(回転)バネによって高効率な2足歩行を実現するロボットが実現されている.しかしながら,足首に固定されたバネは足首の能動的な運動を妨げてしまい,特に底屈が困難になることは地面の蹴り出しを大きく妨げる要因となる.そこで,我々は非対称な足首弾性を有する足首機構を用いたリミットサイクル規範型歩行を提案する.これを実現する一例として,本論文ではゴムを用いている.同じ性質のゴムを足首に拮抗配置するものを対称配置と定義し,異なる性質のゴムを足首に拮抗配置するものを非対称配置と定義する.特に,底屈運動を容易にするために,爪先側の前方のゴムによる弾性を小さくする.踵側の後方のゴムはエネルギー回生において重要と考えられるので弾性を大きくする.この歩行を解析するために,我々は数学モデルを構築し,数値的シミュレーションによって歩行の解析を行った.この結果,提案する非対称弾性足首機構を用いた場合においても高効率な周期的歩行が生成されることを確認した.