論文集抄録
〈Vol.53 No.10(2017年10月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ パラメータ不確かさを有する非線形システムにおけるロバストカルマンフィルタ

日立製作所・石原 新士・東京工業大学・山北 昌毅

KFベースの推定器は,ダイナミクスのパラメータに不確かさが存在する場合に推定精度が劣化することが知られている.
著者らはパラメータ不確かさが予測誤差共分散行列に及ぼす影響の解析結果に基づいてREKFとRUKFを提案した.これらの手法は,パラメータの平均値と分散が分かれば適用できる.ただし,これらの手法は状態推定のみに着目したものであり,パラメータ推定は実現できなかった.状態量とパラメータを推定する同時推定法があるが,同時推定は状態推定誤差とパラメータ推定誤差が相互に影響し,過渡状態の推定精度が低下する可能性がある.一方,状態量とパラメータを別々に推定する手法として,UMVEが提案されているが,UMVEが利用できるのは線形システムに限られている.
本稿では,まず, REKFとRUKFを統一表現で再導出する.さらに,パラメータ不確かさの大きさによって,パラメータ不確かさが予測誤差共分散行列に及ぼす影響項を調整する適応則を導出し,非線形適応ロバストフィルタを提案する.また,パラメータ不確かさが推定結果に与える影響を分離可能な近似最小分散不偏フィルタ導出し,非線形システムにおける同時推定問題へと拡張する.最後に,数値シミュレーションによって提案手法の有効性の確認を行う.


 

■ ベイズ学習に基づく確率論理システムの最適化

上智大学・豊田 充,申 鉄龍

本稿では確率論理システムの最適化問題を扱う.未知の目的関数を持つシステムを対象とし,ガウシアンプロセスによる学習アルゴリズムを用いたベイズ最適化の枠組みを拡張する.はじめに regret bound, すなわち真の最適解による目的関数値と提案手法によって達成される目的関数値の差をガウシアンプロセスの統計的性質を用いて評価する.そして提案した最適化アルゴリズムの検証のために数値例を示す.


 

■ 音響管粉粒体レベルスイッチ

法政大学・吉田 智哉,小林 一行,鈴木 郁,
関西オートメイション・山下 浩二,法政大学・渡邊 嘉二郎

本論文では, タンク内にある灰のような, 軽くて温度が高い粉粒体でも適用可能な新しい音響管型のレベルスイッチについて述べる. 使用する音響管には, 圧電サウンダを取り付け, 音響管の長さを圧電サウンダの共振周波数の半波長に合わせることで, 同じ共振周波数とする. すなわち, L=n ×(共振周波数の半波長)とした. 出力端に粉粒体がある場合, 音響管の共振周波数か変化し, 圧電サウンダのインピーダンスが減少する. この変化を, 単純な分圧回路により粉粒体の有無を検出する. しかし, 音速は環境温度に比例するため, 音響管の共振周波数は変化し, 結果として誤検出をする場合がある. 本論文では, この誤検出の原因を理論的に解析し, これらを解消する粉粒体有無のための新しいアルゴリズムを開発した. 新しく提案した音響管式レベルスイッチは, 13[kg/m^3]程度の低密度の粉粒体においても, またさらに, 室温23度で音響管の検出端を450度に熱した場合においても安定して, 粉粒体の有無を検出することができた.


 

■ 油圧ショベルの操作コントローラ開発のための油圧システムの同定

 福井大学・吉田 達哉,同志社大学・辻内 伸好,伊藤 彰人,福井大学・鞍谷 文保,
キャタピラージャパン・安藤 博昭,ネオリウム・テクノロジー・青柳 多慶夫,村山 栄治,荒井 邦晴

建設機械業界においても排ガス規制,省エネ,自動化は最大重要課題である.近年ICT建機を代表とする自動化施工に関する研究・一部適用が行われるようになってきた.この自動化施工技術を油圧ショベルの作業に適用するにあたっては,事前のシミュレーション技術は不可欠である.油圧システムなどが有する非線形性や機体レベルでの不確実性・外乱因子などを適切にモデル化することは非常に困難であるため,試作機製作の前にできるだけ高い確度でモデルを構築することがそれらのコストの大幅な削減につながる.本論文では,自動化施工におけるコントローラ開発のためのプラントモデルを,現行の機体における実機計測データを用いていかに同定するかについて言及する.ここでは,レバー操作を入力とし,アクチュエータである油圧シリンダの駆動速度を出力とした,むだ時間と不感帯を組み合わせた2次の伝達関数として,プラントモデルを表現し,差分進化法によってパラメータを同定した.また遺伝的アルゴリズムを用いてパラメータ同定を行ったが,差分進化法の方が同定精度および収束性に優れていることが分かった.差分進化法により油圧システムの開発に有用なプラントモデルを構築することができる.


[ショート・ペーパー]

■ マルチサブキャリア多元接続を用いた構造ヘルスモニタリングにおけるSDR処理遅延実測システムの開発

 電気通信大学・中野 遥平,藤原 辰起,
慶應義塾大学・三次 仁,電気通信大学・川喜田 佑介,市川 晴久

本論文では,マルチサブキャリア多元接続を構造ヘルスモニタリングに適用する際に課題となるSDR 処理遅延について論じた.構造ヘルスモニタリングにおける無線センサ端末は,対象となる構造物の大きさや耐用年数を考慮するとワイヤレスかつバッテリレスであることが望ましく,パッシブ RFID の通信方式を拡張したマルチサブキャリア多元接続が提案されている.マルチサブキャリア多元接続ではSDR 処理遅延 の発生が避けられず,入力と出力の時間同期が必要となるモニタリング法を使用する際にSDR 処理遅延の推定が必要となる.そこで本研究では,SDR 処理遅延を実測するシステムを作成しその処理遅延を実測した結果,モニタリング対象とSDR 処理を実行するシステム毎が同一であれば,同程度の処理遅延が発生することを明らかとした.許容できる処理遅延の変動はモニタリング法によって異なるが,モニタリングに先立って試作センサ端末の一つに有線接続用のケーブルを取り付け,モニタリング対象を一度ハンマリングするだけで簡便に校正ができることを,システム開発を通して明らかにした.