Vol.51,No.9
論文集抄録
〈Vol.51 No.9(2015年9月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 一般化最小分散評価に基づく閉ループ同定と外乱モデルの推定
- ■ クランク軸の回転計測からのエンジントルクと筒内圧指標の推定
- ■ 太陽光発電大量導入時の蓄電レベル制御 ― 周期的ロバストモデル予測制御の提案 ―
- ■ 対数線形化末梢血管粘弾性モデルに基づく交感神経活動の定量化と皮膚電気刺激に対する客観的疼痛評価への応用
- ■ フィッシャー情報量に基づくジェットエンジンの最適センサ配置決定法
- ■ DLPプロジェクタに対する光量と画質制御のためのPWM幅設計
- ■ RSA公開鍵暗号を用いたネットワーク制御系のセキュリティ強化
- ■ ElGamal暗号を用いた制御器の暗号化
[論 文]
■ 一般化最小分散評価に基づく閉ループ同定と外乱モデルの推定
首都大学東京・植松 凌太, 増田 士朗
本論文では,著者らのデータ駆動型一般化最小分散制御の考え方をもとに確率的な外乱から生成される一組の入出力データを用いた閉ループ同定手法を提案する.データ駆動型一般化最小分散制御では,有色雑音でモデル化される外乱によって生成された入出力データから制御器パラメータを更新することができるが,このときプラントパラメータも同時に求めることもできる.しかし,プラントパラメータの同定には外乱モデルを用いるため,閉ループ同定法として利用するためには外乱モデルの同時推定が必要となる.そこで,本研究では,先行研究の評価関数において外乱モデルをパラメータ化した評価関数を新しく設定し,その評価関数の最適化によってプラントモデルと外乱モデルのパラメータが一意に求められることを示す.また,安定系および不安定系に対して従来法であるMatlabの計算ツールarmax.m および予測誤差法と比較し,従来法より優れた同定性能があることを示す.
■ クランク軸の回転計測からのエンジントルクと筒内圧指標の推定
日立製作所・青野 俊宏,日立オートモティブシステムズ・猿渡 匡行
厳しくなる規制をクリアするエンジン燃焼を実現するにはには,精密な温度制御が必要である.温度を応答性よく測定することは困難であるため,エンジントルクから推定したい.そこで,クランク軸回転速度からエンジントルクを推定する方法を提案する。この方法は,4つのステップからなる:(1)測定されたエンジン回転数ωを分析し,周波数成分に分割され,(2)各成分に周波数に比例するゲインを乗算し,(3)各成分の相を2π/4だけシフトし,(4)各成分を 合成することによって燃焼トルクは推定される。これらのステップは、一つのフィルタで実現できる。フィルタの出力は,ロードトルク等の影響を受けるが, これはエンジンリンク機構の幾何学的な性質により補償できる.この方法を,実機評価した. 1000回転以下の定常状態では,エンジン回転数から推定した燃焼トルクは,参照トルクに精度よく追従した.しかし,2000rpmでは,推定トルクの脈動が顕著になった.バルブタイミングが変更されるとIMEPが変化するが,推定トルクにから算出したIMEPは参照IMEPの変化に精度よく追従した.
■ 太陽光発電大量導入時の蓄電レベル制御 ― 周期的ロバストモデル予測制御の提案 ―
首都大学東京・端倉 弘太郎,小浦 弘之,
東芝三菱電機産業システム・梅田 勝矢,首都大学東京・児島 晃
電力系統における太陽光蓄電池の運用段階に着目し,需給予測の誤差を許容するモデル予測制御法を提案する.蓄電池運用の目的は, 適正動作範囲に関する制約を満たしつつ,蓄電量を望ましい周期的な目標値に回復することである.新たにconstraint tightening法を適当な周期系に導入することにより,予測誤差の下でロバストに制約条件を満足する.提案する制御則は運用開始前にオフライン計算でき,調整予備力を事前に評価することが可能である.これらの結果は, 太陽光蓄電池の連日運用シミュレーションに適用され,調整予備力と目標値に回復可能な蓄電量範囲の関係が考察される.
■ 対数線形化末梢血管粘弾性モデルに基づく交感神経活動の定量化と皮膚電気刺激に対する客観的疼痛評価への応用
広島大学・松原 裕樹,平野 博大,静岡大学・平野 陽豊,広島大学・松岡 玄樹,栗田 雄一,
日本光電工業・鵜川 貞二,広島大学・中村 隆治,佐伯 昇,吉栖 正生,河本 昌志,辻 敏夫
本論文では,ヒトが感じる疼痛度を客観的に評価する新たな手法を提案する.心拍一拍ごとの連続血圧および光電容積脈波情報を対数線形化末梢血管粘弾性モデルに代入することで計算される血管剛性βは末梢交感神経活動変化を表しており,本稿では血管剛性βを疼痛度評価指標と定義する.実験では,健常男性に対し皮膚電気刺激を印加した際の血管剛性βおよび一般的な疼痛指標であるNRSの変化を同時に計測し,電気刺激,安静時の値で正規化した剛性値β_nおよびNRSそれぞれについて比較を行なった.その結果,皮膚電気刺激の最大電流振幅I_maxと正規化血管剛性値β_nの間に線形な相関関係が確認された(R^2 = 0.77, p < 0.05).また,最大電流振幅I_maxとNRS,正規化血管剛性値β_nとNRSにおいてもシグモイド関数による近似式により有意な相関関係が確認された(それぞれ,I_max v.s. NRS: R^2 = 0.91,p < 0.01, β_n v.s. NRS: R^2 = 0.92, p < 0.01).
■ フィッシャー情報量に基づくジェットエンジンの最適センサ配置決定法
慶應義塾大学・若林 優一,IHI・垣内 大紀,木下 萌,中村 恵子,
古川 洋之,慶應義塾大学・小野 雅裕 ・足立 修一
本論文では,フィッシャー情報量に基づく最適センサ配置決定法を提案する.航空機のジェットエンジンには飛行中の故障や,経年劣化といったリスクがある.そのため,定期点検を行い,故障や劣化が生じた部品の交換を行なう必要がある.本研究の目的は,点検コストの低減や飛行中での故障検出を目的としたヘルスモニタリングを行うことである.
ジェットエンジンのヘルスモニタリングでは,状態推定を用いた故障検出がよく行われる.正確な推定を行うための最善の方法は,関連のある全ての物理量を観測することである.しかし,センサ数が増加すると,コストの増加などの問題が生じるため,センサ数は最小限に抑えたい.さらに,センサを配置できる箇所は非常に多いため,どれを選択するかが重要な問題となる.
そこで,フィッシャー情報量に基づく最適センサ配置決定法を行う.既存研究では,冗長なセンサが最適配置に含まれる,1つの動作点でしか最適化を行っていない,有効性の検証が不十分である,といった問題があった.これに対し,まず本論文では前処理として,パラメータ感度に基づくセンサの相関解析法を提案する.つぎに,複数の動作点に対する多目的最適化法を提案する.最後に,多数のシミュレーションを行い,提案法の有効性を検証した.
■ DLPプロジェクタに対する光量と画質制御のためのPWM幅設計
熊本大学・岡島 寛,上瀧 剛,松永 信智,内村 圭一
近年,プロジェクタの多くがDigital Light Processing (DLP)の映像表示システムにより構成されている. LED等の光源からの光をDMDという 微小鏡面を平面に配列したデバイスに反射させ,スクリーンに投影することで映像表示を行う.複数の2値 画像を高速で切り替えることで高画質の映像表示を実現できる.このとき,フレームレートの向上を行うためには,1枚の表示に要する画像枚数を削減することが必要不可欠であり,色量子化が必要となる. そ こで本論文では,DLPプロジェクタを用いた画像表示を想定し,量子化されたデータで の劣化の少ない画像表示法について考える.まず,色量子化の問題が光の発光時間にも依存することを踏まえ,PWM幅の設計問題となることを明らかにする.本論文においては光輝度も考慮した上で,DLPプロジェクタにおけるPWM幅の 設計問題を評価関数の制約付き最適化問題として定式化する.さ らに,制約条件や非線形評価などに対して強いメタヒューリスティックな数値解法の一つである粒子群最適化手法(PSO)を用いることで定式化されたPWM幅 設計問題に対する数値解を導く.得られた出力画像を用いた数値シミュレーションにより設定した問題の有効性を検証する.
■ RSA公開鍵暗号を用いたネットワーク制御系のセキュリティ強化
奈良先端科学技術大学院大学・藤田 貴大,電気通信大学・澤田 賢治,小木曽 公尚,新 誠一
本稿では,制御器内の処理で用いられるパラメータや信号(観測量やレシピ情報)の情報を全て暗号化したまま,制御入力の演算が可能な暗号化制御則の概念を提案する.そして,一般的な公開鍵暗号の一つであるRSA暗号を制御システムのセキュリティに応用することを考える.特に,RSA暗号方式の場合にその準同型性から,比例制御に対する暗号化制御則が実現できることを示す.また,提案法の有用性を確認するため,数値シミュレーションにより,RSA暗号を制御システムに適用した際の動作と秘匿性を検討する.
奈良先端科学技術大学院大学・藤田 貴大,電気通信大学・小木曽 公尚
本稿では,公開鍵暗号方式の一つであるElGamal暗号を用い,制御系の運転状態の推定が困難な暗号化制御則の実現法を提案する.ElGamal暗号とは,離散対数問題の求解に係る計算複雑さに着目した暗号方式で,乱数を用いるため,比較的安全であることが知られている.そして,このElGamal暗号を用いて制御器内部の信号とパラメータを秘匿したまま,暗号化された制御入力を直接計算する暗号化制御則を実現する.暗号化制御則は,暗号文復号用の秘密鍵を用いない演算方法なため,制御器内部に秘密鍵を実装する必要がない.したがって,攻撃者が制御器へ侵入を果たした場合でも,制御系の情報を保護することができる.最後に,数値例による提案法の検証結果を示す.