Vol.51,No.6
論文集抄録
〈Vol.51 No.6(2015年6月)〉
タイトル一覧
[特集 第19回ロボティクスシンポジア特集号 Ⅱ]
- ■ 5輪電動車いすの静的ウィリーとこれを利用した段差踏破に関する研究
- ■ 可変粘弾性関節マニピュレータを用いた粘弾性制御による瞬発力を伴う運動の制御
- ■ 身体運動・音声・映像の特徴を用いた統合モデルによるマルチモーダルジェスチャー認識
- ■ 球形動力伝達機構を用いたアクティブキャスタACROBATによる全方向移動ロボットに関する研究 -冗長駆動性のないアクティブキャスタの動力伝達機構とその制御方法の開発-
- ■ ヘテロジーニアスな複数台自律エージェントによる階層的転移学習
- ■ 放射性物質除去を目的とした路面洗浄ロボットシステム —放射性物質除染実験—
[論 文] - ■ 多入力非線形システムに対する位相面における幾何学的考察に基づく非線形制御とその応用
- ■ ラバーハンド錯覚における筋電位および皮膚電位反応の解析
[ショート・ペーパー] - ■ ランダムカーネルを用いた条件付確率推定
[論 文]
■ 5輪電動車いすの静的ウィリーとこれを利用した段差踏破に関する研究
東京農工大学・宗方 宥,和田 正義
本論文では,手動車いすに後付けする電動化機構により構成される5輪電動車いすについて,前輪が段差を踏破するための手法について提案する.5輪電動車いすは,手動車いすの後方に全方向に移動できるアクティブキャスタを,駆動輪として1輪搭載することで構成される.本文では,この5輪電動車いすを用いて,ウィリー動作を行う際に大車輪と駆動輪で構成される三角形内に重心を移動させることで後方転倒の危険性のない,静的に安定なウィリー動作(静的ウィリー)を提案し,前輪浮上姿勢を維持させたまま走行することを可能とした.車いすのフレームと駆動輪をリンク機構で接続し,駆動輪を後方に駆動することで静的ウィリーを実現する動作について力学解析を行った.さらに,リンク機構の車いすへの接続条件を検討し,大車輪が滑ることなく駆動輪ができるだけ小さい駆動力でウィリー動作を実現するための機構の支持位置を決定する方法を示した.試作機を製作し実験を行うことで,提案した手法により5輪電動車いすの前輪が段差踏破を実現できることを確認した.
■ 可変粘弾性関節マニピュレータを用いた粘弾性制御による瞬発力を伴う運動の制御
中央大学・戸森 央貴,永井 豪,間島 達雄,中村 太郎
人間は可変粘弾性特性をを利用し,大きな振動なくジャンプしたり投げるなどのさまざまな運動を行う.一方で,産業用などで広く用いられているアクチュエータはギヤードモータや油圧アクチュエータなどの剛性の高いアクチュエータである.そのためこれらのアクチュエータが可変粘弾性を有することは難しい.また,高速な動きを得るためには,アクチュエータの出力を大きくする必要があり,高重量化につながる.著者らは軸方向繊維強化型人工筋肉と磁性流体(MR)ブレーキを用いた1自由度可変粘弾性関節マニピュレータを開発した.そして,本マニピュレータによる瞬発力の発生をおこない,むだ時間,立ち上がり時間が、従来の応答に比べて減少した.つぎに任意の瞬間的な力の発生後,関節に平衡力を加えることによって,ロボットの腕の位置を制御した.さらに,評価関数を用いてMRブレーキを制御することにより,アームの振動を制御した.この粘弾性制御により,仕事率を大きく損なわずにアームの応答を向上させることができた.
■ 身体運動・音声・映像の特徴を用いた統合モデルによるマルチモーダルジェスチャー認識
東京大学・郷津 優介,小林 誠季,小原 潤哉,
草島 育生,武市 一成,高野 渉,中村 仁彦
身体運動・音声・映像の特徴を統合するマルチモーダルジェスチャー認識システムの設計法を提案した.提案システムでは,身体運動,音声,映像の特徴をそれぞれ逆運動学計算,ケプストラム解析,肌色検出により抽出し,身体運動と音声の時系列情報は隠れマルコフモデルで学習し,映像に関しては一連のジェスチャーで描かれる検出点群の軌跡の中心と分散を用いることで時系列情報を扱い,取得した特徴をランダムフォレストで学習した.また,後段で統合するアプローチを用いており,モーダルごとに構築されたモデルから得られる識別スコアを提案手法により統合し,その出力を最終的な識別結果とした.実験では,マルチモーダルジェスチャー認識のコンペティションで提供されたデータセットを用いており,ジェスチャーのカテゴリー識別性能の比較を行った.結果は,3つのモデルを統合したマルチモーダルモデルがほとんど全てのカテゴリーにおいて最も高い識別率を示し,全カテゴリーの平均識別率では身体運動モデルのみの場合に比べて88%も向上した.これは各モデルが相補的に寄与したことでカテゴリー識別率の向上に繋がったと考えられ,識別スコア段階での統合がジェスチャー認識にも有効であることを示すことができた.
■ 球形動力伝達機構を用いたアクティブキャスタACROBATによる全方向移動ロボットに関する研究 -冗長駆動性のないアクティブキャスタの動力伝達機構とその制御方法の開発-
東京農工大学・和田 正義,小松製作所・平間 貴大
本論文ではこれまでに開発してきたアクティブキャスタの課題であった駆動の冗長性と車輪2軸の複雑な制御の問題を解決する目的で,ACROBAT(Active-Caster RObotic drive with BAll Transmission)と呼ぶ新たな動力伝達機構用いたキャスタ型車輪を利用した3輪全方向移動ロボットを提案している. ACROBATでは動力伝達機構に球を用い,モータの動力をローラと球を介してアクティブキャスタの車輪軸および操舵軸を駆動する.この機構の特徴は車輪の進行方向を計測するセンサが不要であることと,駆動の冗長性を軽減できることである.本文では3輪のACROBATを3つのモータで駆動する全方向移動ロボットの設計と制御について報告する.はじめにACROBATの運動学と全方向移動ロボットの構成に関する考察を行い,導出された運動学を用いてロボットの動作を制御する制御系を提案した.提案するシステムの有効性を検証するためシミュレーションと試作機を用いた実験を行った.その結果,ロボットの運動は単純な運動学によって表現でき,移動ロボットを構成する制御システムはシンプルなものになることを確認した.
■ ヘテロジーニアスな複数台自律エージェントによる階層的転移学習
東京電機大学・河野 仁,村田 雄太,産業技術総合研究所・神村 明哉,富田 康治,東京電機大学・鈴木 剛
本論文では,ヘテロジーニアス(以下ヘテロ)なマルチエージェント強化学習において,獲得知識の再利用を可能にする,階層的転移学習について述べる.近年,強化学習や転移学習を活用した,マルチエージェント・ロボットシステム(Multi-agent robot system : MARS)の実世界応用が期待されている.強化学習とMARSを組み合わせたシステム(Multi-agent reinforcement learning : MARL)は,自律的に協調行動などの振る舞いを獲得することが可能である.さらに,転移学習と組み合わせることで,MARLは他ロボットの獲得知識を再利用することができる.しかし,関連研究では,ホモジーニアスな環境に置ける基礎的検討が多く,ヘテロで多台数のMARLにおける,転移学習の方法論が深く議論されていない.そこで著者らは,新たに階層的転移学習(Hierarchical transfer learning : HTL)を提案している.HTLは,オントロジを用いてヘテロな多台数ロボット間の転移学習を実現する手法である.本論文では計算機実験から,ヘテロなマルチエージェント環境における,提案手法の効果を確認したので報告する.
■ 放射性物質除去を目的とした路面洗浄ロボットシステム —放射性物質除染実験—
日本大学・遠藤 央,遠藤 麻衣,柿崎 隆夫
本研究では東電福島第一原発事故により拡散された放射性物質を高圧洗浄により除去するシステムの研究開発をしている.現在の福島県内では住環境周りの除染の作業進捗が遅く,新たな手法や装置などの作業を加速する技術の開発は急務である.提案するシステムは家庭用高圧洗浄機を用いてロボットにより高効果な除染を実現するものである.システムは複数の洗浄ロボットと搬送ロボットから成り.協調することにより除染時間を短縮することを目指す.本論文ではシステムのコンセプトについて述べ,洗浄ロボットに適用する路面洗浄アルゴリズムについて述べた.また,実際にアルゴリズムを洗浄ロボット実験機へ適用した実験について述べた.本研究において開発されたシステムは低線量地帯での除染だけでなく,高線量地帯での除染にも活用できる.福島第一原発における除染を推進するための1つの可能性として応用も可能である.現在提案されている除染ロボット技術に比べて除染効果は劣るが,1つの課題である除染時間を短縮することが可能であり,その技術的応用を進める意義がある.また,洗浄モジュール単体での運用も可能であるため,単に洗浄装置として実用化することも可能であり,実用化のための技術移転も進めている.
■ 多入力非線形システムに対する位相面における幾何学的考察に基づく非線形制御とその応用
東京工業大学・鈴木 洋史,東京都市大学・関口 和真,東京工業大学・三平 満司
1入力アファインシステムの非線形システムに対し位相面における挙動に着目した非線形フィードバックコントローラの設計法を提案されている.しかし,多入力の場合を扱うことができない設計法であった.そこで,本論文では1入力の設計法を拡張し多入力を扱える新たな設計法を提案する.1入力の場合とは安定性の保証方法は同じであるが,設計部分が異なる.また多入力システムの位相面における挙動に着目した非線形フィードバックコントローラの有効性を数値シミュレーションで検証した.
さらに,位相面における挙動に着目した非線形制御の応用として2つの評価関数に基づいた制御法を提案する.安定性を保証しつつ原点近傍と近傍外で異なる評価関数に基づき制御をする.原点近傍外では,(1)Lyapunov関数の最急降下方向,(2)Lyapunov関数の単位時間あたりに最も減少する方向,(3)Sontag型制御Lyapunov関数の3つの場合で制御を行い,原点近傍では収束性に関してロバスト性の高い制御を行う.(1)から(3)の3つの場合について台車振子システムを例にとり数値シミュレーションを通して検証した.
東京大学・辻 琢真,濱崎 峻資,慶應義塾大学・前田 貴記,加藤 元一郎,
東京大学・岡 敬之,山川 博司,旭川医科大学・高草木 薫,東京大学・山下 淳,淺間 一
近年,ヒトの自身の身体認知に関する脳内メカニズムを解明するために,身体所有感(SOO)が外界の対象に拡張する現象の1つであるラバーハンド錯覚(RHI)に注目が集まっている.
これは,自分の視界から隠された本物の手と,目の前に置かれたラバーハンドに絵筆などで一定時間の同期した触刺激が与え続けられると,ラバーハンド上に触刺激を知覚するようになる現象である.
しかし,先行研究の大部分は錯覚が生じる諸条件の究明に焦点を当てており,その生起メカニズムのモデル化を図る研究は少ない.
本研究では,実験中の任意の時間におけるRHIの生起を検証するために,ハンマーを用いてラバーハンドに強い打撃を与えた際の,本物の手における筋電位(EMG)と指先の皮膚電位反応(SCR)を計測した.
その結果,筋電位計測に基づくRHI生起の検証方法は実験中の任意の時間に実施することが可能で,皮膚電位反応計測に基づく検証方法と比べて,より内観報告の結果と一致する可能性が示唆された.
[ショート・ペーパー]
宇宙航空研究開発機構・塚本 太郎
本論文では、確率的分類問題に対するシンプルな手法を提案する.ランダムに与えたサイズを持つカーネルを用い、関連度自動決定を用いて適切なものを選択することで交差検定を用いることなく適切なカーネル幅を選択し容易に精度のよい近似モデルが得られることを示す.