論文集抄録
〈Vol.59 No.5(2023年5月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ スパースベイズ手法による制御バリア関数の学習と安全な持続的被覆制御

 東京大学・山内 淳矢, 水田 和輝, 藤田 政之

本論文では,スパースベイズ手法により学習した環境モデルを用いて,未知環境を安全に探索する持続的被覆制御手法を提案する.ここでは,環境データを取得するためのセンサとしてLiDARセンサを用いる.得られた環境の部分的なデータから安全性を推定するため,スパースベイズ分類モデルを導入する.つづいて,制御バリア関数法に基づき,ロボットの安全性を保証しつつ未知環境を探索するスパースベイズ分類モデルを用いた被覆制御則を提案する.また,安全な被覆を行うことで得られる新たなデータ集合により,逐次的にスパースベイズ分類モデルを更新するアルゴリズムも提案する.最後に,シミュレーションにより提案アルゴリズムの有効性を検証する.


 

■ 安定化制御器のクラスを特徴づけるナイキスト線図における円パラメータのデータ駆動型推定と更新則

信州大学・五十嶋 洸人, 種村 昌也, 千田 有一

本論文は,制御対象が未知という状況でナイキスト線図における安定余裕のクラスを特徴づける複数の円パラメータをデータ駆動により推定する手法を提案する.先行研究において,我々は推定されたひとつの円から安定化制御器のクラスを導出した.しかし,もし複数の円パラメータを推定することができれば,複数の安定化制御器のクラスが得られる.そのため,データ駆動により複数の円パラメータを効率よく推定する方法を提案する.


 

データ駆動型フィードバック変調器による非線形補償器の設計

大阪大学・吉田 侑史, 石川 将人, 南 裕樹

制御器の設計において制御対象に含まれる非線形要素に対処することは,制御系全体の性能を左右しうる重要な課題であり,補償器が種々提案されている.しかし実際に制御対象に含まれる非線形性は実機に実装して初めてその影響の度合いがわかることも多く,設計時点で机上検討できる範囲には限りがある.そのため,非線形補償器の系統的な設計や調整は容易ではない場合が多く,個々のノウハウに依存することが多い。
そこで著者らは,データ駆動型フィードバック変調器 (DDFBM)と呼ぶ,制御対象の運用データを用いてパラメータを調整する非線形補償器を提案する。DDFBMはあらかじめ設計された制御器と制御対象の間に挿入して使用することが可能な補償器であり,非線形補償器の設計と制御器の設計を分離できることが特徴である。本論文ではDDFBMとその設計手法を示し,数値シミュレーションにより非線形補償に有効であることを確かめた.


 

■ ドロネー単体分割を利用した位置決め誤差補正手法と大型成型機への適用

川崎重工業・本多 文博, 清水 翔嗣, 加賀谷 博昭,久保田 哲也

デジタルツイン活用による製造工程の検証は今後ますます拡大していくものと想定されるが,現実の生産ラインを計算機上のモデルと完全に一致させることは不可能であり,この誤差が大きいと計算機上の事前検証が意味をなさなくなる.これを避けるためには,現実とモデルを合わせるための誤差補正技術が必要であり,ロボットの動きを計算機上で検証するオフライン教示においても様々な誤差補正手法が提案されている.本論文では,機構のデジタルモデルに生じる誤差の種類とその補正方法について論じ,ドロネー単体分割を利用して近傍の基準点の計測結果に基づき誤差量を推定することで空間全体の位置決め誤差を補正する新手法を提案する.提案手法は基準点計測による誤差補正を一般化したもので,軸構成や誤差要因に依存せず汎用的に利用可能であり,従来方法に対し,(a)任意の場所に基準点を設定できる,(b)計測が必要な基準点数が少なくて済む,(c)計算時間が少なくて済む,といった優位性がある.提案手法を大型成型機に適用したところ,位置決め誤差は半分以下に低減されることを確認した.