Vol.58,No.8
論文集抄録
〈Vol.58 No.8(2022年8月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 基礎型高度熟練技能における暗黙知の構造解析とその適用に関する理論構築
- ■ 自己駆動型モデル予測制御による移動ロボットの軌道追従制御
- ■ せいめい望遠鏡の集中制御則の制御性能評価
- ■ 物理モデリングとシステム同定の融合による過給ガソリンエンジンの制御指向モデリング
[ショート・ぺーパー]
[論 文]
■ 基礎型高度熟練技能における暗黙知の構造解析とその適用に関する理論構築
東京大学・馬渡 正道,土屋 健介
本稿は,基礎型高度熟練技能の暗黙知に関して,基本構造の解明とその適用に焦点を当てて探求し,その理論構成を試み,もって一般の技能者がその暗黙知をより効率よく修得するための有効な着眼点の理論的把握および当該技能の効率的な自己鍛錬方式を確立することを目指すものである.そのために,その高度熟練技能の実践過程を現象学の知見を活用して丁寧に観察し,その過程を実際に計測して情報化し,それに基づいて高次元ベクトル軌道としての数理モデルを構成する.さらにこのモデルに対して多次元微分幾何学の知見を活用して,それに内蔵する暗黙知を数理解析して実体化し,これを形態としてグラフに表現し,指標化する.最後にこの形態と指標とを活用して目的の実現を図る.
■ 自己駆動型モデル予測制御による移動ロボットの軌道追従制御
明治大学・永井 駿斗,市原 裕之
本論文では不確かな車輪の滑りを考慮した移動ロボットの軌道追従のための自己駆動型モデル予測制御(MPC)について考える.軌道追従誤差モデルには不確かな滑りに起因する時変項があるため,予測ステップごとの可到達集合に基づいた tube 制約を導入する.提案する MPC は不確かさのもとで軌道追従誤差と制御入力に関する制約を満足し,繰り返し実行する際の MPC 問題の可解性を保証することができる.さらに,自己駆動機構を導入することで,ネットワーク上にある制御器と移動ロボットの間の通信を減らすことが期待できる.最後に数値実験によって提案する MPC の有効性を検証する.
金沢大学・軸屋 一郎,内田 大智,
京都大学・木野 勝,栗田 光樹夫,大阪大学・山田 克彦
分割主鏡制御は巨大望遠鏡を実現するための必須技術である.本研究ではせいめい望遠鏡における集中制御則の制御実験結果を報告する.過渡応答解析により理論的な動特性が確認され,定常応答解析により天体観測に十分な制御性能を達成していることが確認された.本報告は分割主鏡制御に関する世界初の制御実験結果であると考えられ,将来的な超巨大分割主鏡制御の開発に寄与することが期待される.
■ 物理モデリングとシステム同定の融合による過給ガソリンエンジンの制御指向モデリング
本田技研工業/慶應義塾大学・上野 将樹,
本田技研工業・八田羽 謙一,織田 信之,慶應義塾大学・足立 修一
過給エンジンは制約をもつ多入力多出力の非線形システムであり,非線形モデル予測制御(NMPC)の適用が期待されている.しかしながら,エンジンのように制御周期の短い対象ではさらなる計算コストの低減が必要である.そこで,本論文では過給圧制御システムにNMPCを適用するために,過給エンジンの高精度かつ低計算コストなモデルを提案する.
提案するモデルの構築方法は大きく3つのステップで構成される.第一ステップでは?過給エンジンを構成する要素システムごとに計算コストを低減する制御指向モデルを構築する.計算コストの低減は,実験モデルのLasso回帰による多入力多項式の項数削減と物理モデルの低次多項式近似により実現する.第二ステップでは,要素モデルを結合して過給エンジンの非線形状態空間モデルを導出する.このモデルはウイナーハマーシュタインモデルの構造となるため,過給エンジンのシステム同定が容易になることを示す.第三ステップとして,物理モデルでは高精度に表現しきれない過給エンジンの非線形特性を表現するために,定常誤差補償モデルを導入する.以上より,実機エンジンの実験データを用いて提案法の有効性を明らかにする.
[ショート・ぺーパー]
■ MIMO系に対するデータ駆動型受動性推定のデータ量削減と収束性
信州大学・飯島 奏望,種村 昌也,千田 有一,名古屋大学・東 俊一
本稿では,システムのモデルを用いないデータ駆動型受動性推定手法について議論する.有用な枠組みとして勾配法に基づく手法が提案されているが,この手法には,収束が遅く,多くの回数の実験が必要であるという問題点がある.そこで,本稿ではMIMO系におけるデータ駆動型受動性推定に必要なデータ量を削減する手法を提案し,その手法の収束性を示す.また,数値シミュレーションにより,提案手法の有効性を検証する.