Vol.58,No.12
論文集抄録
〈Vol.58 No.12(2022年12月)〉
タイトル一覧
[第27回ロボティクスシンポジア特集号]
[論 文]
- ■ 複雑な環境における自律移動ロボットの確率推論モデルを用いた走行可能性分析
- ■ 3段階の睡眠深度を入力とした座位条件下における入眠時に現れる頭部揺動モデル
- ■ 歩容ベクトルと歩容ベクトル間の類似度の提案
- ■ ウェアラブル・エンベデッドセンサを用いた作業姿勢分類と作業検知への応用
[論文]
[第27回ロボティクスシンポジア特集号]
[論 文]
■ 複雑な環境における自律移動ロボットの確率推論モデルを用いた走行可能性分析
パナソニックアドバンテストテクノロジー・劉 陽, 山本 和成, 高橋 三郎, 阿部 敏久
未知の起伏環境におけるロボットの安全な自律走行を実現するため,障害物,段差など,危険源を示す走行可能性地図が必要である.本論文では,3DLiDARを搭載するロボットを使用し,リアルタイムに走行可能性地図の生成手法について議論する.提案手法は確率推論モデルを用い,地形を示す標高地図の更新,立体障害物の推定および移動体の除去を同時に実施し,地形の起伏状況と障害物情報を総合的に考慮する高精度な走行可能性地図を作成することができる.実験を通し,本手法は様々な実環境において,ナビゲーションに適した走行可能性地図を生成することを検証した.
■ 3段階の睡眠深度を入力とした座位条件下における入眠時に現れる頭部揺動モデル
信州大学・村山 侃暉, 岩本 憲泰
座位条件下では,覚醒からノンレム睡眠第2段階への遷移期に頭部の上下の揺動が発生する.本論文では,3つの睡眠深度の時系列を与えることで頭部揺動を計算するモデルを提案する.提案モデルは,頭部筋骨格系モデルと筋活性度モデルを結合したものである.前者は筋収縮特性に基づく拮抗駆動系で表現し,後者は睡眠深度に応じて筋活性度の大きさを変化させる.まず,入眠時の脳波,頸部周辺の筋電位と頸部角度を計測し,その特性から2つのモデルを構築し,提案モデルを開発した.次に,提案モデルが実際の頭部の動きを表現できるかどうかを検証するために数値シミュレーションを行い,シミュレーション結果と実験結果を比較した.シミュレーションの結果,提案モデルが実験結果を表現できること,中間段階で生成される筋活性度の波形が実験特性を持つことが結論付けられた.このモデルは,頭部の動きから眠気を推定できることを示唆しており,ドライバーの眠気の推定への応用が期待される.
和歌山大学・前田 一成,
農業・食品産業技術総合研究機構・徳田 献一,
和歌山大学・中嶋 秀朗
歩行は身体-制御系-環境の相互作用によって生み出されると考えられているが,この相互作用を議論するための尺度は明確に定義されていない.そこで,歩容生成の過程に着目し,定常歩容を生成するまでの歩容の過渡状態から相互作用の性質を分類する.本研究では歩行を生み出す相互作用を分類するために歩容生成における歩容の過渡状態の数値化を目指した.過渡状態を表現するために,本稿では歩容を基準とする脚が1歩進むまでの脚の接地状態の時系列と定義した.脚の接地状態を数値化し,基準とする脚が1歩進むまでの脚の接地状態の組み合わせによって歩容をベクトルで表現し,これを歩容ベクトルとした.本稿では6脚ロボットの歩行シミュレーション結果に対して,歩容ベクトルを適用した.歩容ベクトル表現によって,定常歩容が生成されるまでの過渡状態を数値化した.また,歩容ベクトルをクラス分けするために歩容ベクトル間の類似度の計算方法についても提案した.2つの歩容ベクトル間の共通成分の数を基に歩容ベクトル間の類似度を導出する.4脚動物で観察される歩容に対して歩容ベクトル間の類似度を導出することにより,提案する類似度導出手法が歩容ベクトルによる歩容のクラス分けの指標となることを示唆した.
■ ウェアラブル・エンベデッドセンサを用いた作業姿勢分類と作業検知への応用
横浜国立大学/神奈川県立産業技術総合研究所・迎田 隆幸,
北海道大学・島田 悠之介, 田中 孝之,
パナソニックアドバンストテクノロジー・野口 宏明,阿部 敏久
近年,高負荷な作業が多く存在する製造業や介護福祉施設において,作業負荷低減を目的とした作業内容解析が盛んに行われている.ただし,有識者による目視評価では観察者の負担が大きく,作業内容を自動で評価できるシステムが必要とされている.この問題に対し,本論文では慣性センサと作業靴に挿入可能なインソール型足底圧センサを利用したウェアラブル・エンベデッドな計測システムを構築し,作業を妨げない作業姿勢推定法および作業検知手法の開発を試みた.提案法では両足の足底圧分布から抽出した特徴量を未学習クラス推定確率ニューラルネットに入力することで,複合姿勢および学習時に想定しない未分類姿勢を考慮した下肢姿勢推定を可能にした.また,作業姿勢の出現順序および負荷量の時間変化を隠れセミマルコフモデルでモデル化することで,姿勢の出現頻度解析
に基づく作業検知を実現した.
実験ではまず,単純な動作や模擬介護作業に対する下肢姿勢推定の有効性を検証し,分類結果のRMS誤差から提案法の有効性が示された.次に,介護施設における計測実験を実施し,介護作業中に含まれる移乗介助作業の検知を試みた.結果から提案法は従来法と同等かそれ以上の判別性能を有することが示され,HSMMに基づく作業モデルの有効性が示唆された.
[論文]
■ 時変ネットワークにおけるサンプル値結合非線形システムの同期
東京都立大学・吉田 伊織, 小口 俊樹
本論文では,同一サンプル値非線形システムの双方向結合からなる時変ネットワークシステムの同期問題について検討している.複数のシステムが同期を達成するには,システム間の結合が不可欠であるが,必ずしも常にシステム間の結合が保たれている必要はない.特に,人工物におけるシステム間の結合を通信で実現する場合,結合の存在はシステム間の通信の存在を意味し,通信コストや通信状況に応じてシステム間の結合の有無が切り替わる状況下での同期条件の導出は,応用上重要である.時変ネットワークによる構造の変化を結合システムのダイナミクスの切り替わりとして捉え,ネットワークの全てのシステムが同期を生じるための条件を導出する.具体的には,非連結グラフを含めた取り得るネットワーク構造に対して,平均滞留時間の概念とLyapunov-Krasovskii汎関数アプローチを用いて,同期誤差ダイナミクスの原点の漸近安定性を議論し,同期が生じるための十分条件を行列不等式形式で導出している.また,得られた条件を用いて同期の可否を判断し,各ネットワーク構造での滞留時間を設計するための手順を示す.
■ 非同期サンプリングデータに基づく線形分散オブザーバの設計
東京都立大学・林田 泰隆, 小口 俊樹
本論文ではセンサネットワークによって取得した情報に基づく大規模システムの分散状態推定問題について検討している.センサネットワークでは各センサノードがそれぞれのタイミングで観測値を取得するため,すべてのセンサから観測されたデータは非周期かつ非同期なサンプル値となりうる.本論文では非同期サンプリング線形時不変システムに対して,非周期かつ非同期な観測値からシステムの全状態の観測を行う分散オブザーバを開発する.状態推定誤差ダイナミクスの安定条件を導出した後,状態推定誤差が漸近的に零に収束するための最大許容サンプリング間隔,および適切なオブザーバゲインが線形行列不等式(LMI)で与えられた条件を解くことで導出できることを示す.提案するオブザーバを用いることによって,センサ同士のクロック同期を行うことなく,システム全体の状態推定が可能となる.
■ 確率的な時変パラメータをもつ制御器モデルによる車線維持行動のモデル化
名古屋大学・辻 悠介, 菅本 周作,奥田 裕之, 山口 拓真, 鈴木 達也
自動車のADAS(先進運転支援システム)の設計や試験のため,ドライバモデルが必要とされている.従来はドライバの平均的な振る舞いをモデル化していたが,人間の行動の不確かさや受容性を考慮するためにはドライバの運転操作のばらつきを考慮可能なモデルが必要である.本研究では,制御モデルをベースとしつつ,人間の特性を鑑みた制御要素やそのパラメータの確率的なゆらぎを組み合わせることで,運転行動のゆらぎを表現可能なドライバモデルを提案する.
提案モデルは先読みを表現する前方注視,修正操舵の実行条件を表現する不感帯,修正操舵量を表現する状態フィードバック,そして操舵の遅延といったドライバの特徴を表現する制御要素から構成され,そのパラメータはさらに時間的・確率的なゆらぎを持つ.観測データとモデルから生成された行動データのそれぞれの分布間距離(対称化KL情報量を用いて計算)に基づいてそのパラメータ分布を調整することで,提案モデルが観測されたドライバの行動のゆらぎを表現できることを確かめた.