論文集抄録
〈Vol.57 No.6(2021年6月)〉

タイトル一覧

[論 文]


[論 文]

■ 状態更新と不変楕円体を併用した離散時間周期時変システムに対するロバスト不変集合の解析

熊本大学・岡島  寛,藤浪  翔

あるシステムの状態が状態空間内のある集合に常に留まり続けるような場合,その集合を不変集合という.不変集合は自律系に対して定義されるが,ある与えられた未知外乱に対して状態の不変集合を考える場合もあり,このような場合の集合をロバスト不変集合と呼び,多くの研究が展開されている.本論文では,リアプノフ関数ベースの楕円による推定手法と状態方程式の更新とを併用した新たなロバスト不変集合の推定手法を提案する.さらに,周期時変システムに対して提案した手法を応用し,ピークが制限された外乱に対する周期時変系のロバスト不変集合を推定する.提案した手法の有用性は数値例を用いた従来手法との比較によって検証する.


 

■ 厳密微分器を用いた移動体障害物回避制御

東京理科大学・手塚 一成,松浦  隼,中村 文一

本制御工学において, 人間が操作する制御システムが状態制約を遵守するためのヒューマンアシスト制御法の確立は重要な課題として提起されている. 非線形制御理論では, 状態制約に関する取り組みのひとつとして制御バリア関数(CBF)を用いた制御法が近年盛んに研究されている. 中でも, 五十嵐らは,移動体障害物との衝突回避を目的とした時変CBFを用いたヒューマンアシスト制御法を提案している. しかし, 前述の手法は, 一般に未知パラメータである移動体障害物の速度が既知であることを前提としており, 制御則の実装には, 障害物の速度推定機構が求められる. 本研究では, 時変CBFの構造に着眼し, 移動体障害物の速度が推定できれば, 時変CBFを用いたヒューマンアシスト制御則を設計することが可能であることを明らかにする. また, 微分したい信号の厳密な微分値を推定することが可能な厳密微分器を移動体障害物の速度推定機構として採用する. さらに, 時変CBFおよび厳密微分器を用いたヒューマンアシスト制法を提案し, 提案した手法が制御システムの安全性を理論的に保障することを証明する. 最後に, 提案法により設計した制御則を電動車いすに実装し, コンピュータシミュレーションおよび実機実験結果の比較から提案法の有効性を明らかにする.


 

■ ビーム角の制限を考慮したボールビーム系の安定化制御

鳥取県産業技術センター・木下  大,鳥取大学・吉田 和信

本論文では,ビーム角度の制限を考慮したボールビーム系の搬送制御系の設計法を開発する.まず,ビーム角度の制約を取扱いがより簡単な入力制約に置き換えるため,ビーム駆動系を2次遅れ系に補償する.そして,モード分解法を用いてプラントを安定部分系と不安定部分系に分離し,不安定部分系を大域的に漸近安定化する入れ子形飽和制御則を導く.
この制御則は,線形の範囲で不安定部分系の極を任意に極配置可能であり,ボールが搬送される時,速度がほぼ一定値以下になるという特徴を持つ.
本飽和制御則は積分特性を持たないため,外乱やモデル誤差によって,ボール位置に定常偏差が残る可能性がある.しかし,積分器を有する線形補償器を用いて定常特性を改善しようとすると,入力飽和に由来するリセットワインドアップ現象により性能劣化が避けられない.そこで,本飽和制御則によって安定化されたプラントとそのモデルの出力誤差を飽和させてフィードバックする新たなIMC構造を導入することにより,リセットワインドアップを抑制しつつボール位置の定常偏差を小さくする制御系を構築する.本制御系の有効性はシミュレーションと実験により検証する.


 

■ 入力時間補正を用いたオンオフ駆動型履帯車両のサーボ制御

信州大学・三橋 朋也,千田 有一,種村 昌也

農業用車両や雪上車にはオンオフ駆動型履帯車両が多く採用されている.このような車両のキネマティクスモデルはdriftless-systemと呼ばれる非線形系となり,一般的な線形制御理論をそのまま適用することができない.この問題の解決方法として,状態変数の1つを時間軸として扱い,時間軸状態制御形に変換することで線形化を行う方法が知られている.また,操作量が離散的になる系の制御としては,状態フィードバックにより得られた連続値入力を離散値入力に変換する入力変換手法が提案されている.しかし,時間軸状態制御形を用いた系に対して前述の入力変換手法を適用し,離散値入力によって制御を行った場合,時間軸が揺らいでしまう問題が生じる.この問題は制御系設計上の不都合を生むだけでなく,サーボ系を用いた制御においては過大に誤差をため込む結果を誘発し,大きな応答の劣化の原因となる.そこで本稿では,時間軸状態制御形を用いたオンオフ駆動型履帯車両の制御について,操作量の入力時間を適切に変化させることで時間軸の揺らぎの補正を行い,性能劣化を防ぐ手法を提案する.また,提案手法をサーボ系を用いた直線追従制御に適用し,数値シミュレーションおよび実機実験を行い,その有効性を確認する.