Vol.51,No.12
論文集抄録
〈Vol.51 No.12(2015年12月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 多層最小射影法による局所半凹実用制御Lyapunov関数の設計
- ■ 写真撮影によるマンホール鉄蓋摩耗度推定
- ■ コード信号を含む出力を用いたスマートグリッドにおけるリプレイ攻撃の検出
- ■ ノンパラメトリック表現を用いたデータ駆動制御
- ■ X線CT画像における逐次近似法を用いたメタルアーチファクト低減
- ■ 直立4足歩行型パワーアシストロボットTTI-Knuckle1の開発
- ■ McKibben型空気圧アクチュエータを有する二次元脚ロボットの立位姿勢と関節剛性に関する解析および実機検証
- ■ 信号機情報を利用した混合整数計画法によるモデル予測型省燃費走行制御
[論 文]
■ 多層最小射影法による局所半凹実用制御Lyapunov関数の設計
立命館大学・福井 善朗, 東京理科大学・中村 文一
多様体上で定義された非線形システムは力学系をはじめとして多くのアプリケーションを持つ.多様体上で定義されたシステムに対し目標点を大域的に安定化する静的状態フィードバック制御則の設計は基礎的な問題であるが,なめらかな制御Lyapunov関数が存在するとは限らないことから難しい問題として知られている.局所半凹関数はなめらかではない関数の一種であり,応用上取り扱いやすいとして注目を集めている.局所半凹実用制御Lyapunov関数は,局所半凹な制御Lyapunov関数の一種であり,局所半凹実用制御Lyapunov関数を使った大域的な不連続静的状態フィードバック制御の設計法が提案されている.
一方,なめらかでない制御Lyapunov関数設計法として,多層最小射影法が提案されており,厳密な制御Lyapunov関数ならびに強制御Lyapunov関数が設計できることが示されている.ところが,多層最小射影法で局所半凹実用制御Lyapunovが設計できるかどうかは示されておらず,このままでは,局所半凹実用制御Lyapunov関数によるフィードバック制御系の設計ができない.そこで,本論文では,局所半凹関数の定義・性質をまとめ,多層最小射影法が局所半凹実用制御Lyapunov関数の設計法としても利用できることを示す.
日本電信電話・村崎 和彦,数藤 恭子,東京理科大学・谷口 行信
現在,世界中の道路には数多くのマンホール蓋が露出している.マンホール鉄蓋はその摩耗によってスリップ事故などの原因となり得ることが知られており,NTTをはじめとする各関連企業では,事故の発生を防ぐために日々設置されたマンホール鉄蓋の摩耗度合を点検しているが,こうした点検作業が多くの人手と時間を要することが問題となっている.本論文では,マンホール鉄蓋点検作業の効率化のためのマンホール鉄蓋摩耗検知システムの構築を目指し,画像処理に基づくマンホール鉄蓋の摩耗度推定手法を提案する.我々は摩耗による凹凸模様の見えの変化をテクスチャの変化として考え,テクスチャ認識において高い有効性が示されているLBP特徴を用いる.加えて,多様なLBP 特徴からマンホール鉄蓋の摩耗と関連性の強い特徴のみを選択する仕組みを提案し,また,鉄蓋画像を複数のパッチに分割して推定を行うことで,多様な環境変化を伴うマンホール鉄蓋の認識を実現する.実際に設置されたマンホール鉄蓋の画像を用いた実験を行い,提案手法が実環境において十分な精度を示すことを確認した.
■ コード信号を含む出力を用いたスマートグリッドにおけるリプレイ攻撃の検出
慶應義塾大学・入田 隆, 滑川 徹
情報通信技術を用いた監視制御データ収集システムに基づくスマートグリッドにおいて、サイバーセキュリティを保証することは主要な課題である. 特に, リプレイ攻撃は完全性および認証に影響を及ぼす危険なサイバー攻撃とされている.本論文では, 制御システムのセンサに与えられたサイバー攻撃の一種であるリプレイ攻撃を検出することを目的とする. まず, 電力ネットワークのモデル化を行う. また,故障評価行列およびリプレイ攻撃を定義する. ただし, 故障評価行列は事前推定値および観測値で構成された故障検出フィルタである. そして, リプレイ攻撃を早急に検出できないことを証明する. つぎに, タイムスタンプの役割を担うコード信号としてセンサに意図的な雑音を加える手法を提案する. さらに, 故障評価行列によって, リプレイ攻撃を反映することができることを示す. 最後に, シミュレーション検証によって, 提案手法の有効性を検証する.
京都大学・藤本 悠介・丸田 一郎・杉江 俊治
より高度な制御性能を達成するためには,制御対象の詳細な非線形特性を考慮にいれることが必要となるが,非線形構造を特定することも,非線形システム同定も一般には困難である.このような困難性を避ける一つの有効な方法としてデータ駆動制御が注目を集めている.これらの多くは,制御器の構造をあらかじめ固定した上で,入出力データから制御器のパラメータを調整している.しかし,制御器の非線形構造をどのように選択すべきかは明らかではない.したがって,制御器の非線形構造をあらかじめ定める必要の無いデータ駆動制御が望ましいといえる.そのような設計を行うために,本論文では制御器にノンパラメトリックな写像を用いることを提案する.そして,目標値追従を目的とした具体的な制御系設計法を示す.特に,コスト関数を近似する関数を導入し,この関数を入出力データから直接最小化するなどの工夫により,制御対象のモデルを用いることなく,過去の入出力データの蓄積に基づき,現在の状態と目標値から望みの制御入力値を得られる写像の構成法を与えている.さらに,複雑な摩擦を有するDCサーボモータを対象として速度追従制御を行い,提案法の有効性を実験により検証した.
■ X線CT画像における逐次近似法を用いたメタルアーチファクト低減
信州大学・加納 徹,小関 道彦
X線CT装置は,被写体の断層画像を再構成する装置であり,非破壊検査技術として多くの恩恵をもたらしてきた.しかし,被写体の中に金属が含まれるとき,メタルアーチファクトと呼ばれる放射状のアーチファクトが発生し,断層画像が不鮮明になってしまう問題がある.メタルアーチファクトの問題を解決するために, FBP法に基づいたアルゴリズムが種々提案されているが,未だ問題は十分に解決されていない.本稿ではまず,エネルギー依存性を持ったX線吸収係数を導出する式を提案し,シミュレーション上でメタルアーチファクトを再現した.そして,逐次近似再構成法における順投影計算において,エネルギー情報を考慮した計算を組み込むことで,メタルアーチファクトを低減する手法を提案した.本提案手法を実測データへ適用した結果,メタルアーチファクトは効果的に低減され,アルゴリズムの有用性が確認された.また本稿では,メタルアーチファクトの発生の強弱を定量的に評価するため,再構成画像に対する二次元フーリエ変換を用いた新しい評価指標を提案し,その妥当性の検討を行った.
■ 直立4足歩行型パワーアシストロボットTTI-Knuckle1の開発
豊田工業大学・大嶋 宏典,成清 辰生,川西 通裕,今仙技術研究所・鈴木 光久
本研究では,類人猿が巨大な体躯を支えるために上肢を使って歩くナックル歩行を手がかりに,新たな歩行支援システムを提案する.ナックル歩行は,上肢部を前脚,下肢部を後脚とする直立4足歩行であり,上下肢の負荷を低減する最も安定な歩行形態であると考えられる.そこで,あたかも装着者自身がナックル歩行をするごとく,直立して4足歩行を実現できるパワーアシストシステムを提案する.そして,その有効性を検証するため,プロトタイプ機の設計・制作を行い,プロトタイプ機を用いた歩行支援の結果を筋電図によって評価する.
■ McKibben型空気圧アクチュエータを有する二次元脚ロボットの立位姿勢と関節剛性に関する解析および実機検証
大阪大学・中西 大輔,末岡 裕一郎,杉本 靖博,
大阪大学/独立行政法人科学技術振興機構,CREST・大須賀 公一
McKibben型空気圧アクチュエータ(以下MPA)はその軽量高出力,可変的な剛性といった特徴から,主に生物を模したロボットのアクチュエータとして盛んに用いられている.また,MPAを用いたロボットは比較的簡単な制御で安定な運動を生成可能であることが知られている.しかし,従来のMPAを用いたロボットやその制御入力の設計は,経験則や試行錯誤によるところが大きく,解析的な側面においては未だ十分な議論がなされていない.これに対して,運動の安定性に対する解析的な知見はこれらの設計に定量的な指標を与
え,合理的かつ多彩でダイナミックな運動の生成を可能にすると期待される.そこで本研究では,MPAや機構の特性と,生成される運動の安定性との関係を明らかにすることを目的とする.本稿では,まずMPA単体のモデルおよび動的特性について述べる.次に屈筋と伸筋として2つのMPAを有する二次元脚モデルの立位姿勢が安定となる条件を導出し,MPAおよび脚機構の特性によってそれらが満たされることを示す.また,姿勢に対する入力(MPA圧力の組合せ)の冗長性が関節剛性に相当し,姿勢と関節剛性を独立に制御可能であることを示す.最後に,これらの結果の妥当性を実機にて検証した結果について述べる.
■ 信号機情報を利用した混合整数計画法によるモデル予測型省燃費走行制御
工学院大学・向井 正和,日産自動車・青木 博,九州大学・川邊 武俊
本論文では,交通信号機情報を利用したモデル予測制御型省燃費走行制御を提案する.信号機交差点を有する複数台の交通信号機が存在する単路における1台の車両の走行制御を考える.走行制御は信号機の動作を予測・利用したモデル予測型の最適制御問題として取り扱う.交通信号機情報と交差点の位置を事前に取得して,評価区間内の車両状態を予測し,これらを用いた混合整数計画問題を解くことで,現時刻の最適な制御入力を求める.計算機シミュレーションにより,提案手法による走行と一般的な車両を模擬した走行とを比較し,提案手法の有効性を確認する.