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特集 人に寄り添う空気圧システムの現状と展望

現在,空気圧システムは安全でクリーンなエネルギ媒体としてロボット工学分野だけでなく,医療・福祉分野などで幅広くその利用価値が認められつつある.一般に,空気圧(駆動)システムは電気式モータに比べ柔軟で人間親和性に優れており,出力対重量比にも富んだアクチュエータの実現に寄与している.その一方で,位置や力の高精度な制御が難しいという大きな問題を抱えている.また,空気源であるコンプレッサーの小型・軽量化の問題は依然残されたままであるという見方が多い.そこで本特集では,こうした問題をクリアにしながら現在の技術をどのように確立して来たのかをモデリングや制御法,および応用事例を示しながら概観することを目的としている.

本特集では「人に寄り添う空気圧システム」と題して,空気圧システムの柔軟性・利便性(安価で小型)や高周波数域での低インピーダンス特性(圧縮性)を陽に生かせるケース,すなわち人により近いシステムの構築を考えている.空気圧以外の油圧・水圧は非常に大きな出力が得られる一方で,油圧・水圧は外部への排出が一般にできないため回収のための配管が必要となり,空気圧に比べ2倍になること(利便性の欠如・大型化)や,高周波数域までの制御(制御面での煩雑さ)が余儀なくされる問題がある.そこで,本特集号ではよりクリーンなエネルギとして空気圧システムのみに着目し,空気圧システムの柔軟性・安全性を利用したロボットの身体構成法や空気圧駆動デバイスの開発(制御法),および代表的な空気圧アクチュエータのひとつであるMcKibben型空気圧ゴム人工筋のモデリングについて説明する.続いて,駆動に必要な小型制御弁の開発について解説し,アクチュエータの開発や医療・福祉分野の応用技術について俯瞰し,空気圧システムの最大の問題ともいえる空気源の確保にも焦点をあてる.最後に研究事例として,医療・福祉について紹介する.こうした解説や事例紹介を通して,人間支援システムにおける空圧の有用性を明らかにするとともに,新たなアクチュエータの開発や計測・制御技術の発展に寄与することを本特集では目指している.

目次

[巻頭言] 『会長就任にあたって』-社会へ向けたSICEの情報発信-
菅野 重樹(早稲田大)
特集 人に寄り添う空気圧システムの現状と展望
[キーワード総説] 特集:人に寄り添う空気圧システムの現状と展望
高岩 昌弘(徳島大)
[総論] 空気圧システムの現状と展望
高岩 昌弘(徳島大)
[解説] 細径人工筋が切り拓くソフトロボティクス
鈴森 康一(東工大)
[解説] セーフティ機能を備えた空圧式ウェアラブルアクチュエータ
塚越 秀行(東工大)
[解説] McKibben型空気圧ゴム人工筋のモデル化とパラメータ推定
小木曽 公尚(電通大)
[解説] 振動駆動マイクロ空気圧弁
平井 慎一(立命館大)
[解説] ドライアイスを用いた小型空気圧源
小山 紀(明治大),北川 能(元東工大)
[解説] 使い捨て可能な家庭用リハビリ機器のための低コスト空気圧制御機器
赤木 徹也(岡山理大)
[解説] ヒトの筋活動を考慮した人工筋肉パワーアシスト装置
齋藤 直樹(秋田県立大)
[解説] 空気圧人工筋を用いた免荷式歩行訓練装置
柴田 芳幸(都立産技高専),山本 紳一郎(芝浦工大)
[事例紹介] 空気圧システムを用いた大腸内視鏡挿入デバイスの開発
中村 太郎(中央大)
[事例紹介] 空気式パラレルマニピュレータを用いた手首リハビリ支援システム
高岩 昌弘(徳島大)
[事例紹介] 空気圧ゴム人工筋を用いたパワーアシストグローブと小型空気圧供給システム
佐々木 大輔(香川大)
[リレー解説] 介護福祉のための研究開発の動向
第10回:高齢者の見守りと地域連携を進めるコミュニティ・セントリック・システム開発の取り組み
山口 亨(首都大),藤本 泰成(首都大)
[リレー記事] SICEと私
第4回:産業応用
新 誠一(電通大)
[部門だより] 産業応用部門2016年度大会
澤田 満(理化工業)
[書評] 「ものづくりのための創造性トレーニング」(渡邊 嘉二郎,城井 信正 ,小林 一行,小坂 洋明,栗原 陽介 共著)
富田 豊(慶應大)
[編集後記]
藤本 真作(岡山理大)