2024年度計測自動制御学会 学会賞贈呈のため,三平 満司氏を委員長とする学会賞選考委員会において慎重に選考の結果,下記論文賞9件,技術賞2件,著述賞2件,新製品開発賞3件,国際標準化賞1件が理事会にて決定された.8月29日,高知県立県民文化ホール(SICE FES開催時)にて贈呈式を行い,受賞者に賞状および副賞が贈呈された.

受賞者略歴および受賞論文概要
[論文賞]9件
(論文賞・蓮沼賞)
○ Nondestructive evaluation of Air Voids in Concrete Structures using Microwave Radar Technique
(SICE JCMSI Vol.15, No.1で発表)
信州大学・高山 潤也 君,日立建機(株)・尾原 雄輝 君

たかやま じゅんや
高山 潤也 君(正会員)
1998年,東京工業大学大学院博士前期課程修了.同年,日産自動車(株)入社.2000年,東京工業大学大学院理工学研究科助手,2012年より信州大学工学部准教授,現在に至る.博士(工学).非線形信号処理アルゴリズム,非破壊検査技術,リモートセンシングシステムなどとその応用の研究に従事.2005年度,2012年度SICE 論文賞,2023年度SICE計測部門論文賞を受賞.

おはら ゆうき
尾原 雄輝 君(正会員)
2021年信州大学工学部機械システム工学科卒業.同年,日立建機(株)入社,現在に至る.在学時はマイクロ波レーダを用いたコンクリート構造物の診断技術に関する研究に従事.
受賞論文「Nondestructive evaluation of Air Voids in Concrete Structures using Microwave Radar Technique」
コンクリート構造物の安全性診断では,内部状態を非破壊検査する技術が不可欠である.それら検査における重要な課題のひとつが,ひび割れなどのわずかな隙間に対する検出性能であり,本論文ではマイクロ波レーダ技術を応用した空隙の判別とその定量的な厚み推定法について提案している.はじめに単純な平行入射モデルを利用してマイクロ波伝播をモデル化し,マイクロ波の反射係数と空隙厚みの関係を計算により求めた.検証の結果,反射波の位相シフト量に着目した空隙と他物体の識別においては良好な結果が得られた一方,反射率に着目した空隙の定量的な厚み推定には課題を残した.そこで新たに細密なマイクロ波伝播モデル,すなわちレイトレーシングに基づいた媒質境界面での屈折・反射,および伝播減衰特性を考慮した伝播モデルを考案した.さらに空隙上下面からのマイクロ波反射波の経路差に着目し,伝播モデルで導出できる両反射波の合成波から反射係数を算出して,空隙の定量的な厚み推定へ応用する方法を提案した.実験的な検証の結果,およそ54%の厚み推定精度の向上を果たし,マイクロ波レーダ技術による本空隙推定法の妥当性を示した.

(論文賞・武田賞)
○ A Recursive Riccati Interior-Point Method for Chance-Constrained Stochastic Model Predictive Control
(SICE JCMSI Vol.16, No.1で発表)
Utopilot Technology Co., Ltd.・張 靖宇 君,京都大学・大塚 敏之 君

じゃん じん ぎゅ
張  靖宇 君(正会員)
2016年ハルビン工程大学船舶工程学院卒業,2019年同大学同学院修士課程修了.2023年京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了.同年,Utopilot Technology Co., Ltd. 入社,現在に至る.在学中,確率モデル予測制御における実時間最適化アルゴリズムの研究に従事.現在,自動運転の軌道計画における実時間最適化アルゴリズムの研究開発に従事.博士(情報学).

おおつか としゆき
大塚 敏之 君(正会員)
1995年東京都立科学技術大学大学院工学研究科博士課程修了.同年筑波大学構造工学系講師,1999年大阪大学大学院工学研究科講師,2003年同助教授,2007年同大学大学院基礎工学研究科教授,2013年京都大学大学院情報学研究科教授となり現在に至る.主として非線形制御と最適制御の理論と応用に関する研究に従事.博士(工学).2006年度SICE 制御部門パイオニア賞,2012年度SICE 著述賞,2014年度SICE 制御部門木村賞などを受賞.システム制御情報学会,日本航空宇宙学会,日本機械学会などの会員.AIAA, IEEE の
Senior Member.

受賞論文「A Recursive Riccati Interior-Point Method for Chance-Constrained Stochastic Model Predictive Control」
本論文は,確率的加法外乱と状態機会制約のもとでの線形離散時間システムのモデル予測制御を扱っている.モデル予測制御の各時刻で解くべき確率最適制御問題を,外乱に応じた制御入力の変化も考慮して動的計画法の形式で再定式化し,リッカチ方程式に基づく解法と内点法を組み合わせたオンライン数値解法を提案している.提案手法は,外乱に応じた制御入力の変化を考慮しているため,単一の制御入力系列を最適化する場合よりも保守性が低減できる.また,状態フィードバック制御則を状態空間全体で陽に求める場合と異なり状態空間を領域に分割する必要がなく,与えられた状態の近傍に対してのみ内点法を使用して状態フィードバック制御則を求めるため,状態空間の次元が高い場合や評価区間が長い場合でも計算量の急激な増大を抑えられる.さらに,提案手法の数値解が最適解へ大域的超1次収束することも保証できる.数値実験により,提案手法が既存手法と比較して少ない計算量でより保守性の低い制御性能を達成することを示している.

(論文賞)
○「 モデル予測制御による歩行者への配慮を意識した自動運転の設計」
(SICE 論文集Vol.59, No.11)
TII・アルン ムラリーダラン 君,名古屋大学・奥田 裕之 君,鈴木 達也君

アルン ムラリーダラン 君(正会員)
1993年生れ.インド,ケララ州出身.2014年NIT Calicut 大学(インド)にて生産工学技術学士の学位を取得.2014年より2017年までHonda R&D India Pvt. Ltd. 研究エンジニア.2017年名古屋大学大学院工学研究科機械システム工学専攻博士前期課程入学,2019年同修了.同年,同博士後期課程入学,2022年修了,2023年博士(工学)の学位を取得.2022年,Technology Innovation Institute(TII)(アラブ首長国連邦)に入社,現在に至る.主として,自動車の自動走行における経路計画・制御や,人-車混在環境における安全な自動運転を実現するための確率論的MPCに関する研究に従事.現在はTIIにて人が運転するよりも速い自律走行レーシングカーの研究,開発に従事.SICE,自動車技術会の各会員.

おくだ ひろゆき
奥田 裕之 君(正会員)
1982年生れ.2010年名古屋大学大学院工学研究科機械理工学専攻博士後期課程修了.同年から名古屋大学大学院情報科学研究科メディア科学専攻/JST CREST研究員,2012年名古屋大学グリーンモビリティ連携研究センター特任助教を経て,2016年名古屋大学大学院工学研究科助教,2021年同准教授,現在に至る.この間,2017年4月から9月までの間,米国University of California, Berkeley 客員研究員.博士(工学).主としてハイブリッドシステム論に基づく人間の行動のモデル化と,行動モデルを応用した個人適合型の行動支援,自動走行システムの設計に関する研究などに従事.電気学会,日本機械学会,自動車技術会,IEEE の各会員.

すずき たつや
鈴木 達也 君(正会員)
1964年生れ.1991年名古屋大学大学院博士課程後期課程電子機械工学専攻修了.工学博士.同年名古屋大学工学部助手.2000 年同助教授を経て,2006年同教授,現在に至る.この間,1998年から1 年間,UC Berkeley 客員研究員.2012年から2019年までJST-CREST 研究代表者,2018年から2020年まで名古屋大学モビリティ社会研究所長,2023年よりJST創発アドバイザを務める.人間と共生する知能化モビリティの設計,ならびにモビリティとスマートグリッドを融合したコミュニティデザインに関する研究等に従事.ICCAS2008 Outstanding paper award,計測自動制御学会論文賞・友田賞,自動車技術会論文賞,などを受賞.日本機械学会,電気学会,自動車技術会,システム制御情報学会,電子情報通信学会,などの会員.

受賞論文「モデル予測制御による歩行者への配慮を意識した自動運転の設計」
本論文では,市街地を走行する自動車が道路を横断しようとする歩行者と迅速に歩車間の合意形成を実現することを目指し,歩行者の「判断エントロピー」を定量化し,モデル予測制御(Model predictive control: MPC)の評価関数にそれを組み込む手法を提案した.歩行者の行動を,判断と動作が混在し,かつ判断に内在する確率的なあいまいさを表現可能なマルチモード確率重み付きARX (Probability Weighted ARX: PrARX)モデルとして表現した.このモデルが持つモード間遷移の確率の曖昧さは,確率のエントロピーとして定量化でき,これは歩行者の判断の曖昧さ指標として用いることができる.一般道における歩行者とのインタラクティブな走行環境を想定し,オープンソースの歩車間の相互作用行動データを活用して歩行者のPrARXモデルを推定したうえで,この判断エントロピーをMPC の評価関数として組み込むことで,歩行者の判断の曖昧さを低減し,歩行者が判断しやすいように配慮する自動運転車両を実現した.判断エントロピーは非線形関数であり,これを含んだ最適化問題を実時間に解くため,入力の滑らかさを保証するサンプルベースの最適化アルゴリズムを適用することで実時間制御を実現した.また,提案手法を実装し,シミュレーションにより提案手法の有用性を検証した.

(論文賞)
○「 入力制約下で最適サーボ系を実現するデータ駆動型フィードフォワード入力設計」
(SICE 論文集Vol.59, No.3で発表)
北九州市立大学・藤本 悠介 君

ふじもと ゆうすけ
藤本 悠介 君(正会員)
2018年京都大学大学院情報学研究科博士課程修了.同年より北九州市立大学国際環境工学部講師,2022年より同准教授.システム同定やデータ駆動制御の研究に従事.2012年日本機械学会畠山賞,SICE Annual Conference 2015 Student Travel Grant Award,2019年度電気学会優秀論文発表賞A などを受賞.博士(情報学).IEEE,システム制御情報学会,電気学会などの会員.

受賞論文「入力制約下で最適サーボ系を実現するデータ駆動型フィードフォワード入力設計」
本論文では,入力制約の下で出力を目標値へ素早く収束させるためのフィードフォワード入力の設計について議論する.特に本論文では,対象システムのモデルを必要としないデータ駆動型の設計を考える.この目的のため,本論文では二自由度制御系のために開発されたデータ駆動予測手法を利用する.このデータ駆動予測を活用することにより,フィードフォワード入力設計の問題はフィードフォワード制御器のインパルス応答を最適化変数とする二次計画問題へ帰着されることが示された.
また,観測出力がノイズの影響を受けている場合に,過適合を避けるために正則化を利用する方法を提案し,さらに提案法の有効性を明らかにするために数値例とモータを用いた実機実験での例を示した.

(論文賞)
○「 Personalized control system via reinforcement learning:maximizing utility based on user ratings」
(SICE JCMSI Vol.16, No.1で発表)
慶應義塾大学・井上 正樹 君

いのうえ まさき
井上 正樹 君(正会員)
2012年3月大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了.同年4月より科学技術振興機構 FIRST 合原最先端数理モデルプロジェクト研究員,東京工業大学大学院情報理工学研究科特別研究員.2014年4月より慶應義塾大学理工学部助教,2018年4月より同専任講師,2021年4月より同准教授となり現在に至る.2010年より2年間日本学術振興会特別研究員(DC2).博士(工学).Human-in-the-loop 制御/ 機械学習の理論と応用研究に従事.本会論文賞(2013, 2015, 2018年度),同論文賞武田賞(2018年度),同制御部門パイオニア賞(2019年度),システム制御情報学会論文賞(2014年度),電気学会産業応用部門論文賞(2017年度)などを受賞.IEEE,システム制御情報学会の会員.

受賞論文「Personalized control system via reinforcement learning: maximizing utility based on user ratings」
本論文では,制御システムのユーザに着目して,その個別の選好を取り入れたパーソナライズド制御システムの設計論に取り組む.従来の設計思想にある多様な環境に対してロバストに動作する共通システム設計を超えて,それぞれの環境に特化させた個別システム設計を狙いとする.そのためにユーザから制御システムに関する粗い評価を得られると仮定して,評価をもとに制御ロジックを更新する強化学習問題を定式化した.そして,ユーザの選好推定をおこなうアルゴリズムと,個別最適な制御ロジックの更新則をそれぞれ提案した.

(論文賞)
○「 Adaptive Output Feedback Control with Cerebellar Model Articulation Controller-Based Adaptive PFC and Feedforward Input」
(SICE JCMSI Vol.15, No.1 で発表)
トヨタ自動車(株)・大財 望夢 君,(株)本田技術研究所・赤池 宏太 君,熊本大学・國松 禎明 君,水本 郁朗 君

おおたから のぞむ
大財 望夢 君(正会員)
2021年熊本大学工学部機械数理工学科卒業,同年同大学大学院自然科学教育部機械数理工学専攻入学,2023年同専攻修了後,トヨタ自動車(株)入社,現在に至る.熊本大学大学院在籍中は,主として,適応制御とその応用に関する研究に従事.

あかいけ こうた
赤池 宏太 君(正会員)
2020年熊本大学大学院自然科学教育部博士前期課程(機械数理工学専攻)修了.同年同大学大学院自然科学教育学部博士後期課程(工学専攻)入学.2023年に同課程修了後,(株)本田技術研究所に入社,現在に至る.熊本大学大学院在籍中は,主として,適応制御系設計に関する研究に従事.博士(工学).

くにまつ さだあき
國松 禎明 君(正会員)
2001年大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程修了.2005 年同大学同研究科博士後期課程修了,同年大阪大学特任研究員.2007年,熊本大学大学院自然科学研究科助教となり,現在,同大学大学院先端科学研究部ロボット・制御・計測分野助教.制御システム設計とフォールトトレラント制御に関する研究に従事.博士(工学).

みずもと いくろう
水本 郁朗 君(正会員)
1991年熊本大学大学院工学研究科修士課程(機械工学専攻)修了.同年同大学工学部機械工学科助手,97年同大学工学部知能生産システム工学科助教授,現在,同大学大学院先端科学研究部(工学部機械数理工学科)教授.適応制御などの制御理論とその応用に関する研究に従事.電気学会,日本機械学会,システム制御情報学会,IEEE, 自動車技術会などの会員.博士(工学).2011,2020年SICE 著述賞などを受賞.

受賞論文「Adaptive Output Feedback Control with Cerebellar Model Articulation Controller-Based Adaptive PFC and Feedforward Input」
本論文では,小脳演算モデルコントローラ(CMAC)に基づく適応並列フィードフォワード補償器(PFC)と適応フィードフォワード入力を併用したシステムの概強正実(ASPR)性に基づく適応出力フィードバック制御系設計法の提案を行った.システムのASPR 性に基づく適応制御手法は,構造が簡素かつロバストな適応制御手法として知られているが,特に非線形システムの場合には,すべての動作点でのASPR(非線形システムでは出力フィードバック指数受動(OFEP))性の実現が課題であった.そこで本論文では,非線形システムへの適応出力フィードバック制御の適用を念頭に,結果として得られる拡張系をASPR化するPFCをCMACにより適応的に設計する手法の提案を行った.さらに,実際の出力に対する目標値追従を達成するために,CMACを用いた適応フィードフォワード入力の設計法の提案も行い,得られた制御系の安定性解析および追従誤差の平均値が十分小さい範囲に収束することを示した.提案手法により,不確かな非線形システムに対するASPR(OFEP)性に基づく適応制御系設計が可能となる.

(論文賞・友田賞)
○「2者間自動交渉における「頑固な交渉戦略」の最適性」
(SICE 論文集Vol.59, No.3で発表)
スイス連邦工科大学チューリッヒ校・仲野 太喜 君,麗澤大学・津村 幸治 君

なかの たいき
仲野 太喜 君(学生会員)
2022年東京大学工学部計数工学科卒業,2024年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程修了.同年スイス連邦工科大学チューリッヒ校博士課程(Max Planck ETH Center for Learning Systems, PhD Program)入学,現在に至る.制御,機械学習,最適化などの研究に従事.

つむら こうじ
津村 幸治 君(正会員)
1992年東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻博士課程修了.同年千葉大学情報工学科助手.96年同講師.98年東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻講師.2000年同助教授,2001年同大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻助教授,2007年同准教授,2024年麗澤大学工学部教授,現在にいたる.博士(工学).制御理論,システム同定,システム解析などの研究に従事.システム制御情報学会,IEEE などの会員.

受賞論文「2者間自動交渉における「頑固な交渉戦略」の最適性」本論文では,人の代わりに行う2者間の自動交渉における最適オファー列の特性を解析している.ここで各プレーヤは交互に交渉の条件を提示し,それを見て各々の期待効用を最適にする対案の条件を逐次提示し合う.このモデルを用いて本論文では,経験的に有効な戦略として知られている「頑固な交渉戦略」,つまり交渉の序盤では頑なに利己的な条件を提示し,交渉の締切に近づくに従い相手に妥協する条件を提示する戦略が,理論的にも最適であることを初めて証明した.また「頑固さの度合い」についても定量的な考察を行い,効用関数との関係を明らかにした.自動交渉技術の開発は,今後,AI が搭載されたエージェント同士を調和させるものとして必須であり,本研究はそのための理論的基盤を与えるものとして分野に貢献している.

(論文賞)
○「 Proposal of New Topology Information Face-List for Manipulation Planning of Deformable String Tying」
(SICE JCMSI Vol.16, No.1 で発表)
岡山大学・戸田 雄一郎 君,松野 隆幸 君

とだ ゆういちろう
戸田 雄一郎 君(正会員)
2017年首都大学東京大学院システムデザイン研究科修了.同年首都大学システムデザイン学部特任助教.2018年岡山大学大学院自然科学研究科助教.2023年岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域准教授,現在に至る.ソフトコンピューティング,知能ロボットの研究などに従事.博士(工学).日本機械学会,IEEEなどの会員.

まつの たかゆき
松野 隆幸 君(正会員)
2004年10月より名古屋大学工学部助手,2006年より富山県立大学助手,その後助教,講師を経て2011年10月より岡山大学大学院自然科学研究科講師,2017年岡山大学大学院自然科学研究科准教授,2022年岡山大学大学院自然科学研究科教授を経て,2023年より岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域教授,現在に至る.産業用マニピュレータの知能化,工場における組立作業の自動化,およびCT 透視下針穿刺ロボットなどに研究に従事.博士(工学).日本機械学会,IEEEなどの会員.

受賞論文「Proposal of New Topology Information Face-List for Manipulation Planning of Deformable String Tying」
本論文ではひも結び操作をロボットマニピュレータが自律的に実行するための新しい形状抽象化データ「Face-list」とロボット操作の計画法を提案した.Face とは複数のセグメントによって構成される閉曲線によって囲まれた領域であり,ひも射影図に複数含まれるFaceをリスト形式で列挙したデータがFace-listである.既存の結び目の位相表現であるP-data と提案したFace-listを組み合わせて,ひもの結び目状態を記述することで,最小のひも操作単位である動作プリミティブによるひもの変形を状態遷移図で表現できる.そして動作プリミティブにコスト付けすることで,ひもを目標形状に変化させる最適な一連の操作を選択する.距離カメラによって得られたひもの位相情報を取得し,提案した記述方法を用いて動作計画の生成が可能となった.実機マニピュレータを用いた実験で提案手法の有効性を確認した.

(論文賞)
○「 3-layer modelling method to improve the cyber resilience in Industrial Control Systems」
(SICE JCMSI Vol.16, No.1で発表)
(株)日立製作所・辻 大輔 君,藤田 淳也 君,松本 典剛 君,田村 悠 君,デーンホフ イェンス 君,重本 倫宏 君

つじ だいすけ
辻  大輔 君(正会員)
2020年名古屋大学環境学研究科博士後期課程修了.2017~2020年日本学術振興会特別研究員(DC1).2020年より株式会社日立製作所に入社,現在に至る.数理モデリング,サイバーセキュリティ,デジタルツインなどの研究に従事.2022年度SICE産業応用部門賞(奨励賞)を受賞.CISSP.博士(理学).

ふじた じゅんや
藤田 淳也 君(正会員)
2011年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了.同年(株)日立製作所入社.現在,同社研究開発グループにて制御用組込みシステム開発技術,制御システム,制御機器,およびスマートファクトリー向けサイバーセキュリティ技術の研究開発
に従事.SICE,ISA 各会員.IEC TC65/WG10 国際エキスパート,ISA99 WG メンバー.技術士(電気電子部門・情報工学部門),CISSP,OSCP,OSCE3,OSEE,ISA Certified Automation Professional.

まつもと のりたか
松本 典剛 君(正会員)
2001年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程修了.同年(株)日立製作所入社.2008~2009年カリフォルニア大学バークレー校 Visiting Researcher.2023年電気通信大学情報理工学研究科機械知能システム学専攻博士後期課程修了.産業分野向けの組込みシステムや制御システムセキュリティの研究開発に従事.博士(工学).SICE,IPSJ,IEICE,ISAの会員.

たむら ゆう
田村  悠 君(正会員)
2019年電気通信大学情報理工学研究科情報・ネットワーク工学専攻修士課程修了.同年(株)日立製作所入社,現在に至る.ネットワークやサイバーセキュリティの研究開発に従事.

デーンホフ イェンス 君(正会員)
2010年ドイツのイルメナウ工科大学情報科学学科大学院修士課程(ディプロマテスト)修了.2010~2012年ドイツ学術交流会日本語学習奨学金プログラムに参加日本へ渡日.2012~2014年(株)日立製作所Visiting Researcher. 同年(株)日立製作所入社,現在に至る.分散システムのセキュリティとネットワークエッジコネクティビティの研究開発
に従事.SICE,IPSJ,ACM の会員.

しげもと ともひろ
重本 倫宏 君(正会員)
2006年大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻修士課程修了.同年(株)日立製作所入所.以来,サイバー攻撃対策技術の研究開発に従事.現在,HITACHI EUROPE LTD. Senior Researcher. 博士(工学).

受賞論文「3-layer modelling method to improve the cyber resilience in Industrial Control Systems」
本論文では,産業制御システムに対するサイバー攻撃の被害影響を可視化する3 層モデル化手法を提案した.提案手法は,アクター(人物/ グループ),アセット(制御機器),プロセス(生産・制御工程)の状態遷移を全て数理言語ペトリネットによりモデル化し,サイバー攻撃の発生時におけるシステムパフォーマンスの時系列データを算出することを特徴とする.模擬工場を対象とした検証実験では,攻撃下の工場における生産率の時系列データが算出できることを確認するとともに,最小限のアセットのみ優先的に復旧することで一時的な生産率の低下を抑制できることを示した.本手法を活用することで,従来は専門家が手動で実施していたサイバー攻撃の影響評価を自動化および非属人化し,セキュリティ対策に関する意思決定が円滑化されることが期待される.

[技術賞] 2件
(技術賞)
○「 小型プログラマブルジョセフソン電圧標準装置の導入について」
(計測標準と計量管理で発表)
アズビル(株)・新沢 陽介 君

しんざわ ようすけ
新沢 陽介
2002年中央大学理工学部精密機械工学科卒,同年株式会社山武(現アズビル株式会社)入社.入社以来,圧力・温度・電気などの社内計測標準の構築・整備・改善,不確かさ評価業務に従事.

受賞論文「小型プログラマブルジョセフソン電圧標準装置の導入について」
国家標準に用いられる小型プログラマブルジョセフソン電圧標準装置(以下,小型PJVS装置)を国内民間では初めて導入,標準器として実用化させた.導入にあたっては測定精度を悪化させるノイズ要因を分析,排除した結果,小型PJVS 装置を標準としたツェナー型電圧標準の校正において,特に0.1 V の高精度化を達成した.また,産業技術総合研究所との比較試験により上記の妥当性を確認した.

(技術賞)
○「 Development of Comprehensive Soft-Sensor Design Tools」
(SICE 産業応用部門大会で発表)
富士電機(株)・田中 雅紀 君,村上 賢哉 君,吉川 譲 君,奈良先端科学技術大学院大学・船津 公人 君,
東京農工大学・金 尚弘 君,三井化学(株)・大寳 茂樹 君,UBE(株)・山田 幸治 君,古屋敷 啓一郎 君,土井 佑介 君

たなか まさき
田中 雅紀 君(正会員)
1984年関西大学大学院工学研究科化学工学専攻博士課程前期課程修了.同年ダイセル化学工業株式会社(現株式会社ダイセル)入社.生産技術業務に従事.2011年富士電機株式会社入社.現在に至る.化学分野の計測制御システムのビジネス開拓,ソフトセンサー開拓業務に従事.計測自動制御学会,化学工学会,化学工学会誌編集委員.

むらかみ けんや
村上 賢哉 君(正会員)
1992年京都大学理学部数学科卒業.同年富士電機株式会社入社.現在に至る.1996年から2年間米国カリフォルニア大学客員研究員.一貫してプロセス制御理論,多変量解析・機械学習によるプラントの異常診断・品質推定・最適化のアルゴリズムの開発に従事.

よしかわ ゆずる
吉川 譲
1994年3月徳島大学工学部機械工学科卒業.1996年3月大阪大学工学研究科産業機械工学専攻博士課程前期課程修了.同年富士電機株式会社入社.現在に至る.入社以来,計測制御システム事業に従事.

ふなつ きみと
船津 公人
1984年3月九州大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了.理学博士.豊橋技術科学大学助手, 助教授を経て,2004年4月から東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻教授(2021年3月定年退職,東京大学名誉教授).2021年4月から奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型サイエンス創造センターセンター長/特任教授.現在に至る.データ駆動化学を推進.2019年アメリカ化学会Herman Skolnik Award,2021年日本化学会学術賞受賞.

きむ さんほん
金  尚弘 君(正会員)
2014年京都大学工学研究科化学工学専攻博士課程を修了.同年京都大学工学研究科化学工学専攻PSE研究室の助教.2021年東京農工大学工学研究院応用化学部門PSE研究室准教授.現在に至る.プロセスシステム工学(PSE),プロセス制御,プロセスデータ解析,プロセスモデリングなどの研究に従事.

おおたから しげき
大寳 茂樹
1994年九州工業大学情報工学部制御システム工学科卒.同年三井東圧化学(現三井化学株式会社)入社.現在に至る.制御エンジニアとしてプラント運転安定化および運転訓練シミュレータ開発,工場用役最適化システム開発,ソフトセンサー導入業務等に従事.2023年東京農工大学大学院工学府応用化学専攻博士課程修了.

やまだ ゆきはる
山田 幸治
2002年山口大学大学院理工学研究科博士課程前期課程修了.同年宇部興産株式会社(現UBE株式会社)入社.現在に至る.2004年からCAE,プロセス制御,データ解析などプラント領域のDX 技術開発業務に従事.2023年からセキュリティ・インフラ整備業務に従事.

こやしき けいいちろう
古屋敷 啓一郎
1986年芝浦工業大学機械工学第二学科卒業.同年宇部興産株式会社(現UBE株式会社)入社.現在に至る.2015年からCAEや工場DXの技術開発や現場実装に従事.

どい ゆうすけ
土井 佑介
2014年3月九州大学大学院工学府機械工学専攻修士課程修了.同年宇部興産株式会社(現UBE株式会社)入社.現在に至る.入社以来,プロセス制御,IoT,データ解析,システム企画管理,DX 推進の業務に従事.

受賞論文「Development of Comprehensive Soft-Sensor Design Tools」
化学工学,特にプロセスシステム工学においては,製造プロセスのデータを活用して生産性を改善するための方法としてソフトセンサーの研究が2000年頃から活発化してきた.2010年ごろには,多くの成功例が報告されるようになってきたが,汎用的な方法が提供されるには至らず,事例ごとにおいて個別に試行錯誤的な作業が必要であった.このような状況を受けて,2016年に産学連携ワークショップ「ソフトセンサー実装」を立ち上げ,汎用的で実用的なソフトセンサー設計ツールの開発を開始した.このワークショップでは,産業界のソフトセンサーに対するニーズを広く取りまとめ,それに対して適切な手法を学術的立場から選択するという,産学の強みを合わせた活動が実施できた.その結果,2020年にソフトセンサー設計のための包括的なツールを作成することができた.その後,富士電機(株)を中心にツールの製品化と現場実装に向けた活動が継続され,より洗練されたツールとして仕上げられていくとともに,多くの企業のデータ解析にツールが利用された.具体的な成果の例として,従前は1 年間に複数回の閉塞トラブルによる運転停止が発生したプラントにおいて,本ツールを用いて短時間で設計されたソフトセンサーを活用することでプラント運転停止が回避されている.これは本ツールがDX に大きな貢献があることを意味している.

[著述賞] 2件
(著述賞)
○Pythonによる制御工学入門(2019年・オーム社)
南 裕樹 君(著)

みなみ ゆうき
南  裕樹 君(正会員)
2009年京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了.舞鶴工業高等専門学校助教,京都大学特定助教,奈良先端科学技術大学院大学助教,大阪大学講師などを経て,2019年より大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻准教授.博士(情報学).2021年度計測自動制御学会論文賞,関西支部支部長賞,2022年度同会教育貢献賞などを受賞.システム制御情報学会,日本機械学会,IEEE などの会員.一般社団法人みんなの制御塾代表理事.

受賞図書「Python による制御工学入門」
本書は,制御工学の専門家が,制御系の解析・設計の要点をしっかり押さえつつ,勢いとノリで仕上げた制御工学の教科書である.伝達関数モデルをベースとする古典制御と,状態空間モデルをベースとする現代制御に加え,ロバスト制御やモデル予測制御の基礎までを幅広くカバーしている.本書を利用することで,Python プログラムを実行しながら制御工学を体験し学習できる.また,各章にはイラストや対話文を取り入れ,制御工学を専門としない方にも読みやすく工夫されている.初版は2019年5月に発行され,2024年1月には改訂2版が発行された.

(著述賞)
○スモールデータ解析と機械学習(2022 年・オーム社)
藤原 幸一 君(著)

ふじわら こういち
藤原 幸一 君(正会員)
2004年京都大学工学部卒業.2009 年京都大学大学院工学研究科後期課程修了,博士(工学).2008年日本学術振興会特別研究員DC2,2009年日本学術振興会特別研究員PDおよび豪カーティン大学客員研究員,2010年NTTコミュニケーション科学基礎研究所研究員,2012年京都大学大学院情報学研究科助教を経て,2018年より名古屋大学大学院工学研究科准教授,2022年よりAMED医療機器等研究成果展開事業・プログラムオフィサーを兼任,現在に至る.専門は機械学習,生体信号処理,システム工学,医療AI 開発など.2017 年新技術財団市村学術賞功績賞,2017年計測自動制御学会論文賞,2021年電気通信普及財団賞 テレコムシステム技術賞,2022年計測自動制御学会著述賞などを受賞.

受賞図書「スモールデータ解析と機械学習」
近年,大規模言語モデル(LLM)などビッグデータを活用したAIが注目されているが,機械の故障のように発生自体が稀なものや,医学データのように倫理的問題からデータ収集に制約があったり,データ判読が専門家以外では困難で学習に利用しにくいデータは,忘れられがちである.ビッグデータの時代において,収集や利用が難しいために忘れかけられているデータのことを,本書ではスモールデータよんでいる.スモールデータでは,測定変数の数に比べて学習に必要なサンプルが不足していたり,それぞれのクラスのサンプル数が極端に偏っていたりするため,深層学習のような方法は適用できず,異なるアプローチが必要となる.本書では,最初にスモールデータとはどのようなデータであるのかを具体的に紹介し,スモールデータ解析の基本となる次元削減と回帰分析が詳述されている.特に部分的最小二乗法(PLS)は,類書ではあまり紹介されていないが,スモールデータ解析における大きな武器である.次に,モデルの性能向上のために必要な変数選択を述べて,特にクラスタリングに基づいた変数選択手法について説明した.つづいて,不均衡なデータの解析手法と異常検知を紹介して,最後にスモールデータ解析についての筆者の経験に基づいたポイント・考え方を述べた.LLMなどのビッグデータの世界は,もはやデータ量と資本力が支配する装置産業である.しかし,筆者はスモールデータの世界は,現場の創意工夫次第でデータから新たな価値を引き出すことのできるブルーオーシャンであると説いている.本書計測と制御を通じて,本邦独自の新たなAIが誕生することを期待される.

[新製品開発賞] 3件
(新製品開発賞)
受賞製品「ディマンド・リスポンスモニタ SORTiATM-Demand Response」
                                                                                                                                                                 アズビル株式会社 殿
カーボンニュートラル社会実現に向け,再エネ発電の導入が拡大している.再エネ発電は気象条件などにより発電量が変動するため,電力需給バランス維持に需要家のエネルギーリソースを制御して電力需要パターンを変化させるディマンド・リスポンス(以下DR)の活用が期待されている.SORTiATM-Demand Response(以下SORTiATM-DR)は,当社提供の電力サービスにて,工場・プラントにおけるDRの確実な実施を支援するアプリケーションである.SORTiATM-DRは,当社が電力サービス提供のために運用するクラウドシステムのアズビルアグリゲーションサーバと需要家のFEMS とを接続し,① DR発動予測情報の提供 ②電力負荷状況によって変化するDR 発動時の需要抑制目標の逐次把握 ③ FEMS と連携しての自動制御によるDR(AutoDRTM 機能)を提供している.これら機能によって電力需給バランス維持ならびにカーボンニュートラル社会実現への貢献を行っていく.
注)SORTiATM, AutoDRTM はアズビル株式会社の商標です.
注)FEMS はFactory Energy Management System の略

(新製品開発賞)
受賞製品「現場の課題を解決するマスフローコントローラ形F4Q」
                                                                                                                                                                アズビル株式会社 殿
マスフローコントローラは,半導体産業の前工程におけるプロセスガス流量制御の用途で発展してきた.近年,熟練作業者の減少や高い品質要求にともない,一般産業市場での自動化が進み,マスフローコントローラの市場が拡大するとともに,製品単体としてのユーザビリティ向上に対する要求が高まっている.形F4Q は,現場の課題を解決するための機能・性能を取り込み,ユーザーシーンに合わせた価値提供を目指して開発された.まず,視認性と操作性を向上するために,大型インジケーターと高精細LCD を採用し,表示情報量を増大させた.表示は90 °毎に回転可能で,十字キーと合わせて設置姿勢に依存しない操作性を提供し,現場設置後でも作業者の操作性を大幅に改善した.さらに,広い流量域で高精度な制御を実現し,制御流量レンジフルスケールの15%~100% の設定値に対して1%SPの精度を達成した.形F4Qは,ユーザビリティの向上と高精度な流量制御を両立させることで,製造現場の効率化と品質向上に貢献する.

(新製品開発賞)
受賞製品「ネクスフォートTMDD」
                                                                                                                                                               アズビル株式会社 殿
ネクスフォートDD は,セントラル空調システムの吹出口単位に配置された制御ダンパで風量を制御し,居住者近くに配置されたワイヤレス温度センサで対象エリアの温度(室温)を計測することで,従来の汎用VAV 製品より細分化された範囲で,温度制御を実現できる.温度制御にはネクスフォート向けに新しい制御となる,各吹出口制御ダンパ間の連携を取りながら,温度制御を実現するアシスト制御を取り入れ,その上,制御ダンパのグループ管理制御も実現している.ワイヤレスセンサは,執務者の机上などに設置するが,エナジーハーベストでの動作および接続設定が不要な製品でもあり,容易に設置することができる.これらを有するネクスフォートDD は,従来の汎用VAV製品より細分化された範囲で,より快適性を提供する新しい空調システムである.

[国際標準化賞] 1 件
(国際標準化賞 奨励賞)

おうと きしょうなんにこる
王時 暁楠ニコル
2011年北海道大学大学院情報科学研究院工学博士後期課程修了,同年より同大学助手.2013年より三菱電機入社,産業ネットワーク,産業システムモデリング,デジタルエンジニアリングなどの研究開発に携わる.
対象国際標準規格名:
・ IEC MSB:2015 published whitepaper “Factory of the future”
・ IEC/TC65/WG23:IEC TR 63283-2:2022 “Industrial-process measurement, control and automation – Smart manufacturing
– Part 2: Use cases”
・ IEC SyC SM:IEC SRD 63456:2023 “Navigation tools for smart manufacturing”
・ IEC/TC65/WG24:IEC 63278シリーズ“Asset Administration Shell for industrial applications”