2019年度計測自動制御学会学会賞 学術奨励賞受賞者
(学術奨励賞・研究奨励賞)10名
○ルネベルグレンズを用いたテラヘルツレーダーの研究
(第36回センシングフォーラム 計測部門大会で発表)
慶應義塾大学 佐藤和人 君
○変位分布計測に基づく圧縮性を考慮した非一様な剛性率分布の推定
(第36回センシングフォーラム 計測部門大会で発表)
東京大学 小島 治 君
○ムカデの歩行・遊泳間の遷移に内在する自律分散制御則
(第31回自律分散システム・シンポジウムで発表)
東北大学 安井浩太郎 君
○支持脚接地点の滑り接触を考慮した 2 脚受動歩行の脚部揺動による安定化
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
北陸先端科学技術大学院大学 顔 聡 君
○ニューラルネットワークの埋め込み安定性と汎化能力の関係
(第14回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会で発表)
奈良先端科学技術大学院大学 古庄泰隆 君
○乳房X線画像における画像診断が難しい腫瘤に対する深層学習を用いた良悪性鑑別の試み
(第14回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会で発表)
東北大学 野呂恭平 君
○超音波ミストビームによる遠隔冷覚提示
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京大学 中島 允 君
○非平行軸配置を有する劣駆動関節機構の振動解析と非把持マニピュレーションへの適用
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
大阪大学 栗田泰輔 君
○凸分解を用いたロボットによる組立作業のためのツール選択手法
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
大阪大学 中山賢斗 君
○運動イメージ療法支援システムのためのMulti-ROI 3D Convolutional Neural Networksによる脳機能分類の提案
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
名古屋工業大学 中野智文 君
(学術奨励賞・技術奨励賞)5名
○人工物環境における直線情報を用いたカメラの外部パラメータ推定法
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
中央大学 池 勇勲 君
○複合現実型視覚情報と振動触覚情報の提示による作業支援
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東北大学 岡部圭佑 君
○衝撃応答制御のための応答適応型可変剛性機構の提案
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
名古屋大学 齋藤 聡 君
○正距円筒オプティカルフローパターンを均等化したE-CNNによる全天球カメラの回転推定の精度向上
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京大学 Dabae KIM 君
○準静的環境下での複数ロボットによる地図更新
(第19回システムインテグレーション部門講演会で発表)
株式会社豊田中央研究所 小山 渚 君
受賞者略歴および受賞論文概要
さとう かずと
佐藤 和人 君(学生会員)
1996年神奈川県生.2019年慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業.同年慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程に進学し現在に至る.テラヘルツ帯におけるアンテナやレーダーの開発の研究に従事.
受賞論文「ルネベルグレンズを用いたテラヘルツレーダーの研究」
テラヘルツ波の自由空間での伝送の実現により,マイクロ波を用いた既存の無線通信やレーダーをテラヘルツ帯でも実現することができるようになる.その際,単位時間当たりの伝送情報量の向上,空間分解能の向上が望めるが,回折減衰も大きくなるため,高指向性のビームを形成・走査をする必要がある.しかし,テラヘルツ帯におけるビーム走査の手法が確立されておらず,未だ課題の一つとなっている.そこで,本研究では誘電体フリーなルネベルグレンズを平行平板間に実装し,それを用いて,中心周波数が300 GHzであるテラヘルツ波の高指向性ビームの形成を可能にした.その後,平行平板の一方の板をわずかに傾けることで,ビーム走査を可能にした.測定結果から提案する機構において入射位置を固定したまま板の傾きを-0.42°から0.42°変えることで-25°から+25°の範囲でのビーム走査を実現した.そして,提案する機構がテラヘルツ波を用いたアプリケーションに有用であることの一例として,レーダーとして機能し,物体の位置検出が可能であることを示した.
こじま おさむ
小島 治 君(学生会員)
1995年東京都生.2018年東京大学計数工学科卒業.同年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程に進学し現在に至る.MRIを用いた人体内部の機械的特性の推定の研究に従事.
受賞論文「変位分布計測に基づく圧縮性を考慮した非一様な剛性率分布の推定」
肝硬変などの人体内部の異常部位は周囲の正常な組織と比較して機械的特性(硬さ)が変化することが知られているため,人体内部の硬さの分布を推定することは異常部位の特定や病気の進行具合の判断に役立つ.非侵襲的な人体内部の剛性率分布の計測手段の一つとしてMagnetic.Resonance.Elastography.(MRE)が挙げられる.MREでは外部から印加した弾性波による変位分布をMRIを用いて計測し,それに基づいて剛性率分布を計算するが,従来手法では剛性率の局所的一様性を仮定するため,剛性率が不連続に変化する最も興味ある領域で誤差が大きくなるという問題がある.また,変位の二階微分を差分近似するため,ノイズにも脆弱となってしまう.変位分布の積分計算によって求めた複素応力.(実部が偏差応力,虚部がせん断応力)と変位の一階微分によって求めた複素歪み和(実部が偏差歪み,虚部がせん断歪み)の比率から剛性率分布を計算する手法を提案する.さらに,反復計算によって圧縮性を考慮した再構成手法へと拡張し,その有効性を示す.
やすい こうたろう
安井 浩太郎 君(正会員)
1988年和歌山県生.2011年一橋大学経済学部卒業.第一生命保険株式会社勤務を経て,2017年東北大学大学院工学研究科博士課程前期2年の課程修了.同年同大学院工学研究科博士課程後期3年の課程に進学,日本学術振興会特別研究員となり,現在に至る.生物の適応的な運動生成メカニズムに関する研究に従事.
受賞論文「ムカデの歩行・遊泳間の遷移に内在する自律分散制御則」
両生類に限らず多くの生物は,水中と陸上という質的に大きく異なる物理的環境において,身体自由度の使い方を巧みに変化させることで自在に移動することができる.しかしながら,こうした運動の背後にある制御メカニズムに関しては未解明な点が多い.そこで,本研究ではムカデに着目し,環境変化に応じた運動パターンの生成においてセンサフィードバックが果たす役割について,行動観察実験,数理モデリングおよびシミュレーション実験により解明を試みた.水陸間の遷移を観察した結果,歩行・遊泳間で運動パターンが徐々に遷移していく様子が確認され,各脚の接地感覚を介したセンサフィードバックが各体節レベルでの振る舞いの変化に寄与していることが示唆された.この知見に基づき,接地感覚フィードバックを介して歩行と遊泳の運動パターンが各体節で自律分散的に切り替わりうる制御則を設計した結果,シミュレーション実験により実際のムカデと同等の振る舞いを再現することに成功した.
Yan CONG
顔 聡 君(学生会員)
1994年中国江蘇省生.2014年日本に留学し,2018年岡山理科大学工学部知能機械工学科卒業.同年北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程に進学し現在に至る.劣駆動移動ロボットに関する研究に従事.
受賞論文「支持脚接地点の滑り接触を考慮した 2 脚受動歩行の脚部揺動による安定化」
滑り易い地面に効率的で安定した歩行を生成することは2脚歩行ロボットが直面する基本的な問題として存在している,特にポイントフットのロボットの場合である.本研究では,滑り易い斜面上で歩行するロボットの安定性の向上を目指して,両脚に装着された能動的な揺動質量を用いた新たな安定化手法を提案する.歩行,摺動および揺動を含む全体の運動は,引き込み効果を介した高周波揺動によって支配される.これより,全質量の僅か1%の揺動質量を制御することで,安定した準受動歩行運動の生成が可能となることを示した.まず,この間接的に制御された2脚歩行の滑り易い下り斜面上の数学モデルを導出する.次に,高周波振動による安定性向上の可能性を数値的に示す.また,揺動が位相平面図を介して歩行に及ぼす影響を調べる.提案方法は,異なる運動タイプを含むより複雑なモデルにも適用することができ,運動全体を高周波振動によって支配できる可能性がある.
ふるしょう やすたか
古庄 泰隆 君(学生会員)
1993年神奈川県生. 2017年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修士課程を修了. 同年同大学院博士課程に進学し現在に至る. 深層学習の最適化と汎化能力の理論解析に従事.
受賞論文「ニューラルネットワークの埋め込み安定性と汎化能力の関係」
古典的な機械学習理論では大き過ぎる学習モデルは訓練データの入出力関係を正確に予測するが,それと比較して未知の入力データに対応する出力は正確に予測できないことを示している.しかしながら近年注目されているディープニューラルネットワーク,(DNN)では逆の実験結果が報告されている.活性化関数にReLU関数を持つDNNは隠れユニット数が多くなる(モデルが大きくなる)ほど訓練データだけでなく未知データに対する予測精度も向上する.本研究では古典的な理論では説明できない上記の現象を説明するため,未知のデータに対する予測性能をDNNの隠れ層による変換が入力データ間の距離を保つ能力に結びつけ,その能力を解析することで初期化したDNNはユニット数が多いほど未知データの予測精度が訓練データの予測精度に近づくことを示した.また数値実験により学習後のDNNも同様の性質を持つことを確認した.
のろ きょうへい
野呂 恭平 君(学生会員)
1995年秋田県生.2018年東北大学医学部保健学科卒業,同年より東北大学大学院医学系研究科保健学専攻博士前期課程に進学し現在に至る.深層学習を用いた医用診断支援システムの研究に従事.
受賞論文「乳房X線画像における画像診断が難しい腫瘤に対する深層学習を用いた良悪性鑑別の試み」
マンモグラフィー画像において,画像から腫瘤の良悪性を鑑別することは最も難しい課題の一つである.中でも米国放射線専門医会の悪性度の分類指標であるBi-RADs分類におけるカテゴリー4の腫瘤は特に鑑別が難しい集団であり,医師の悪性的中率はほぼ50%となっている.現在深層学習を用いて腫瘤の良悪性鑑別を行う研究が進められているが,カテゴリー4腫瘤に対してどの程度の性能を発揮できるかについては調査されていない.本研究では,深層学習のモデルであるAlexNetを用いてカテゴリー4腫瘤の良悪性鑑別を行った.結果として,医師の診断結果よりも優れた鑑別結果となった.また,個別腫瘤の予測より,その判別基準は医師の診断基準とある程度一致していることが分かった.この結果は,画像診断が難しい症例であっても、精密検査結果で訓練した深層学習を用いることで、より正確な良悪性鑑別が可能であることを示唆するものである.
なかじま みつる
中島 允 君(学生会員)
1992年東京都生.2017年東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修士課程修了.現在,同専攻博士課程在学中.空中超音波を用いた触覚提示技術に興味をもつ.特に超音波フェーズドアレイを用いた遠隔冷覚提示の研究に従事.
受賞論文「超音波ミストビームによる遠隔冷覚提示」
触覚情報提示技術は,振動覚や圧覚といった機械的な触覚を対象としたものが多い中,温冷覚もいくつか提案されている.その中で,非接触型温冷覚提示デバイスについては,接触型デバイスと比較すると少ないが,いくつか提案されている.この方法は,ユーザーの身体運動を妨げない,提示部位が幅広いという利点がある.
本研究ではユーザーがデバイスを装着することなく遠隔で冷覚を提示することの実現を目的としている.これまでに,超音波ビームを用いて低温の空気を空中輸送することで遠隔冷覚提示を提案した.しかし,その提案システムは,冷気源としてドライアイスの冷気を用いており,冷気が放出される度に消耗してしまうことから,実用的な用途範囲が限られてしまう.そこで,その用途範囲を拡張するためにミストの気化熱を用いて,効率的に冷覚提示をする手法を新たに提案する.
くりた たいすけ
栗田 泰輔 君(学生会員)
1995年東京都生.2018年大阪大学工学部応用理工学科機械工学科目卒業.同年大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程に進学し現在に至る.ロボットマニピュレーションに関する研究に従事.
受賞論文「非平行軸配置を有する劣駆動関節機構の振動解析と非把持マニピュレーションへの適用」
劣駆動システムは,ロボットに搭載されるアクチュエータやそれに付随する制御機器の削減効果を有し,省コスト性やメンテナンス性向上への貢献が期待できる.本研究では,独創的な劣駆動関節機構を導入し,わずか1つのアクチュエータによる3自由度非把持マニピュレーションに挑戦した.提案機構は,アクチュエータにより駆動する1つの能動関節と複数の粘弾性受動関節の直列接続から成り,関節軸が互いに非平行であることを特徴とする.はじめに,能動関節への正弦波状変位入力に対して,出力リンク先端に楕円状の振動軌道が現れること,その楕円形状と回転方向(時計・反時計回り)は入力周波数に応じて変化することを理論的に明らかにした.次に,このような振動軌道可変効果を,プレートを用いた非把持マニピュレーションに適用し,プレート上の対象物の多様な3自由度運動パターンを生成することに成功した.プロトタイプロボットを製作し,提案手法の有用性を実験により示した.
なかやま けんと
中山 賢斗 君(学生会員)
1995年大阪府生.2018年大阪大学基礎工学部卒業.2020年大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻博士前期課程を修了.ロボットに取り付ける把持ツールの自動設計に関する研究に従事.
受賞論文「凸分解を用いたロボットによる組立作業のためのツール選択手法」
製品を構成する部品には形状,質量,摩擦係数などのさまざまな物理パラメータがあり,ロボットに取り付ける把持ツールにも,指の本数,開閉幅,指の形状などさまざまな設計パラメータがある.本研究では,把持対象物体に対して凸形状分解を適用し,把持部を選択する.その把持部を円柱と直方体であてはめ,把持部との体積差がより小さいほうを選択する.円柱が選択された場合は円柱の端点を3指ハンドで把持することを考え,直方体が選択された場合は2指ハンドで把持することを考える.そして,円柱や直方体の大きさに応じて,2指ハンドや3指ハンドの開閉幅や指の大きさなどの設計パラメータを決定する.さらに把持ツールの指の詳細な形状を決定するため把持部に平面クラスタリングを適用する.把持対象となるクラスタの法線ベクトルから指表面の形状を決定する.最後に,設計された把持ツールに対して,把持ツールの交換を考慮した組立作業の自動計画を適用する.
なかの ともふみ
中野 智文 君(正会員)
2019年3月名古屋工業大学大学院工学研究科情報工学専攻博士前期課程修了.在学中は機械学習による脳機能推定の研究に取り組む.同年4月パナソニック株式会社入社.現在は同社コネクティッドソリューションズ社生産技術センターにて,AI等を用いた製造業のプロセス革新に従事.
受賞論文「運動イメージ療法支援システムのためのMulti-ROI 3D Convolutional Neural Networksによる脳機能分類の提案」
運動イメージ療法とは,「障害された脳細胞の機能を周辺の脳細胞が代償すること(脳の可塑性)」を利用し,特定の運動イメージを繰り返すことで運動機能の回復を図るものである.この療法は運動イメージを正しく行えているか否かを患者にフィードバックすることで効率化できるが,そのためには人間の脳の状態から運動イメージの内容を推定する必要がある.加えて,実用を考えると,推定器は学習していない人物の脳機能であっても個人差によらず推定できること(汎用型脳機能分類)が望まれる.本研究では,ニューラルネットワークによる汎用型運動イメージ推定を試みた.既存の脳の賦活領域解析手法と,提案モデルである複数領域入力の3次元CNNを組み合わせることで,高次元なfMRI脳機能画像をディープラーニングで扱えるよう工夫した.論文では,複数人のfMRI脳機能画像群を用いた実験結果を報告し,提案手法の有効性を示している.
ち よんふん
池 勇勲 君(正会員)
1983年韓国ソウル特別市生.2010年韓国慶熙大学機械工学科・ コンピュータ工学科卒業.2012年韓国高麗大学大学院メカトロニクス専攻修士課程修了.2016年東京大学大学院精密工学専攻博士後期課程修了,博士(工学).その後,東京大学日本学術振興会外国人特別研究員,中央大学精密工学科助教を経て,2020年4月より北陸先端科学技術大学院大学先端科学研究科准教授となり現在に至る.移動ロボット,水中ロボット,環境知能化等の研究に従事.
受賞論文「人工物環境における直線情報を用いたカメラの外部パラメータ推定法」
近年,人間を取り巻く環境内にカメラネットワークなど,分散センサインフラを構築する環境知能化技術に注目が集まっている.知能化空間(intelligent space)内に設置されているカメラネットワークから信頼性のある情報を収集するためには,各カメラに対する精密なキャリブレーション作業が不可欠であり,本研究では外部パラメータを容易に推定する手法の構築に着目する.これまでに筆者らは環境の3次元直線モデルを利用し,6自由度の外部パラメータを容易にキャリブレーションする手法を提案した.この研究では,画像内の直線情報におけるハフ空間で定義される画像ディスクリプタを利用した3D-2Dマッチングを行うことで,カメラの自動キャリブレーションを実現した.本研究では,直線情報における画像ディスクリプタをさらに改良し,環境の構造的な特性に依存しないよりロバストなカメラの外部パラメータ推定手法を提案したので,その結果を報告する.
おかべ けいすけ
岡部 圭佑 君(学生会員)
1994年生.2017年東北大学工学部機械知能・航空工学科卒業.2019年同大学大学院工学研究科ロボティクス専攻博士課程前期2年の課程修了.振動刺激を用いた運動教示に関する研究に従事.
受賞論文「複合現実型視覚情報と振動触覚情報の提示による作業支援」
物流拠点をはじめとして図書館での蔵書点検や医療現場において手術で必要な医療器具,薬剤の取り揃え作業など数多くの分野でピッキング作業が行われている.こうした現場における作業のミス軽減や効率の向上を図るため,本研究では,視覚情報と振動触覚情報を用いたピッキング作業支援システムを提案する.視覚情報はMicrosoft社製のHololensを利用して複合現実型の情報として提供し,現実の作業空間に重ねて3Dオブジェクトを表示して対象物の位置を強調する.振動触覚情報は振動提示デバイスを用いて手首に振動刺激を与え,対象物の方向を提示して手首を対象物まで誘導する.これにより,対象物が視覚外に位置する場合も振動触覚情報で視覚情報を補うことができ,それぞれのデバイスを単独で利用するよりも作業を効率化することが期待できる.検証実験において実際の棚を用いたピッキングタスクを実施し,提案システムを用いることでユーザーの作業効率が向上することを実証する.
さいとう さとし
齋藤 聡 君(正会員)
2017年名古屋大学工学部機械・航空工学科卒業.同年より同大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士前期課程に入学,現在に至る.天体表面探査機の着陸脚の研究に従事.
受賞論文「衝撃応答制御のための応答適応型可変剛性機構の提案」
天体表面探査機は,スラスタ噴射によるレゴリスの飛散や探査目標地の汚染を防ぐため,自由落下を経て着陸する.その際,着陸地点の地形や物性,探査機の姿勢角や速度などには不確かさがあるため,着陸脚には衝撃を吸収し,かつロバストに転倒を防止する能力が求められる.また,従来の着陸脚では構造材の塑性変形による衝撃吸収材が多く採用されてきたが,再使用性を有さないため開発時の実験コストが増大するという課題がある.これらの課題を解決するため,本研究では再使用性のあるばねを複数組み合わせ,応答によって使用するばねを変更することで各着陸脚のばね剛性を可変とし,転倒を防止するセミアクティブ着陸脚機構を提案した.斜面への着陸に対する有効性がシミュレーションによって確認されたので,その結果を報告した.
Dabae KIM 君(学生会員)
1994年韓国ソウル生.2018年横浜国立大学機械工学・材料系学科卒業.同年東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻修士課程に進学,2020年3月同修了.360度の広視野角を持つ全天球カメラを装着した移動ロボットの深層学習によるVisual Odometryに関する研究に従事.
受賞論文「正距円筒オプティカルフローパターンを均等化したE-CNNによる全天球カメラの回転推定の精度向上」
災害現場においての復旧作業時には2次災害の恐れが存在するため,カメラを装着した移動ロボットを現場に投入して作業を行うことは重要なタスクとなっている.特に,人の介入が困難な場所では移動ロボットによる自律的な環境計測や自己位置推定を行う必要がある.その際に,移動ロボットが動きを止めて機体を回転しながら作業する場面が多く,カメラの回転を推定することは非常に重要である.360度の情報が取得可能な全天球カメラはその広視野角の特性より効果的な環境計測が可能である有効なデバイスである.近年,深層学習を用いたロバストな全天球カメラの回転推定法が提案されつつあるが,全天球カメラから取得した正距円筒画像には不均等な歪みが存在するため,正しい学習と推定を妨げ精度を低下させる問題がある.本研究では,この不均等な歪みを均等化した学習ネットワークであるE-CNN(Equirectangular-Convolutional Neural Network)を提案し,回転推定における約24.1%の精度向上を確認した.
こやま なぎさ
小山 渚 君(正会員)
2010年九州大学工学部機械航空工学科機械工学専攻卒業.2012年大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻博士前期課程修了.同年株式会社豊田中央研究所に入社し現在に至る.移動ロボット・自動運転車両のための環境認識技術の研究開発に従事.
受賞論文「準静的環境下での複数ロボットによる地図更新」
環境地図は移動ロボットの自己位置推定に必須の情報である.しかしながら,時々刻々と物体配置が変化する環境(準静的環境)下では,環境地図と実環境との間に乖離が発生し,自己位置推定の精度が低下する問題が生じる.そこで本研究では,サーバ上の環境地図をオンラインGraph-based SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)に基づいて逐次更新し,複数の移動ロボットに提供する技術を開発した.環境計測データを取得した各移動ロボットの位置・姿勢をノードとするグラフ構造に,環境計測データ同士の類似度ならびに時間経過の度合いを考慮して相対位置・姿勢制約(アーク)を追加していく.このグラフ構造の最適化により,準静的環境下であっても歪みを最小限に抑えながら環境地図を更新し,複数移動ロボットの継続的な自律移動を可能とした.