(2019年2月19日 第9回定時社員総会会場において贈呈)

(学術奨励賞・研究奨励賞) 10名

○冗長計測特性に基づく回転測域システムのキャリブレーション
(第18回システムインテグレーション部門講演会(2017.12.20-22)で発表)
株式会社富士通研究所 山尾 創輔 君

○前腕装着型導電性繊維を用いた脈波取得による心拍推定手法の提案
(第13回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会(2018.6.16-17)で発表)
慶應義塾大学 増山 義輝 君

○電力取引システムにおけるプリンシパル・エージェント間の最適動的契約設計
(第60回自動制御連合講演会(2017.11.10-12)で発表)
早稲田大学/JST CREST 和佐 泰明 君

○レトロフィット制御器の状態空間における補償構造と双対性
(第5回制御部門マルチシンポジウム(2018.3.8-11)で発表)
東京工業大学 笹原 帆平 君

○脚の切断状況に応じた歩行運動を生成可能な6脚ロボットの自律分散制御則
(第30回自律分散システム・シンポジウム(2018.1.28-29)で発表)
東北大学 宮澤 咲紀子 君

○油圧ショベル掘削作業における感性フィードバック制御を目的としたストレス変動のむだ時間抽出
(第13回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会(2018.6.16-17)で発表)
慶應義塾大学 奈良 莉紗 君

○自励振動を誘発する柔軟小型バルブ:電気不要の移動ロボットを目指して
(第18回システムインテグレーション部門講演会(2017.12.20-22)で発表)
東京工業大学 宮木 悠二 君

○2軸能動空気噴射ノズルを持つ索状体の浮上制御方法の提案
(第18回システムインテグレーション部門講演会(2017.12.20-22)で発表)
東北大学 安部 祐一 君

○小物体把持のための改質MR流体を用いるユニバーサルグリッパの開発
(第18回システムインテグレーション部門講演会(2017.12.20-22)で発表)
九州工業大学 福崎 琢也 君

○DNA反応拡散系によるゲル媒質中でのパターン形成
(第30回自律分散システム・シンポジウム(2018.1.28-29)で発表)
東北大学 安部 桂太 君

(学術奨励賞・技術奨励賞) 4名

○磁気復元力生成により内部補償を実現するマグネット機構
(東北支部第313回研究集会(2017.12.9)で発表)
東北大学 清水 杜織 君

○ヘキサロータ型全駆動UAVの構造の性質を利用した最適制御
(第5回制御部門マルチシンポジウム(2018.3.8-11)で発表)
東京工業大学 田所 祐一 君

○高周波振動と非対称振動の複合出力による滑り方向・滑り速度の提示 第2報:非同期な振動の複合出力
(第18回システムインテグレーション部門講演会(2017.12.20-22)で発表)
東北大学 堀江 新 君

○中間周波磁界に対する神経刺激応答評価手法の開発
(ライフエンジニアリングシンポジウム2018(2018.9.10-12)で発表)
電力中央研究所 齋藤 淳史 君

やまお そうすけ
山尾 創輔
1990年宮城県生.2013年東北大学工学部情報知能システム総合学科卒業.15年同大学大学院情報科学研究科博士課程前期修了.三次元計測のための信号処理や最適化の研究に従事.
受賞論文「冗長計測特性に基づく回転測域システムのキャリブレーション」
回転測域システムは,測域センサと回転機構で手軽に構築できる全周三次元計測機として注目されている.一方で,回転測域システムは,組立誤差や経年劣化により構成がずれやすく,高精度に計測するためにはキャリブレーションの実施が必要となる.従来手法は,特殊ターゲットや周囲の平面を必要とし,応用範囲が限定的となる課題があった.本研究では,回転測域システムの「測域面が一回転する間に同一の地点を冗長に計測する」という性質(冗長計測特性)に着目し,特別な環境条件に依存しないキャリブレーションを提案する.回転測域システムの有する冗長計測誤差の幾何モデルを定義し,冗長計測誤差に基づく非線形最適化問題としてキャリブレーションを定式化することで,従来手法が適用困難な環境においても,高精度に補正量を推定できることを示した.本研究により,回転測域システムの応用範囲を拡大し,多様な現場における三次元データの利活用を促進できる.

ますやまよしき
増山 義輝
1995年神奈川県生.2018年慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業.同年慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻満倉研究室修士課程に進学し現在に至る.導電性繊維を用いた心拍計測機器に関する研究に従事.
受賞論文「前腕装着型導電性繊維を用いた脈波取得による心拍推定手法の提案」
心拍は精神および身体の状態を評価する有効な指標として医療やヘルスケア分野において着目されており,今日まで心拍情報の取得を行うウェアラブル型のデバイスが多く提案されている.しかし,これらのウェアラブル型のデバイスには,装着に伴う被験者への負担が大きいものや,動作時の接触不具合などによって計測波形に不確実性を含むなどの課題があり,被験者への負担低減や安定した心拍情報計測可能な手法が必要である.これらの背景より,本研究では簡便に装着が可能で伸縮性があり装着感を感じない導電性繊維を用いた前腕装着型脈波取得装置と,その測定機器を用いた計測信号から安定して心拍情報を取得する手法の提案を行った.既存の心拍計測デバイスを用いて提案手法の計測精度検証実験を実施し,解析を行った結果,提案手法では動作有無に依らず安定した脈波計測が可能であることを示した.

わさ やすあき
和佐 泰明
1989年神奈川県生.2011年東京工業大学工学部制御システム工学科卒業.2013年同大学理工学研究科機械制御システム専攻修士課程修了.2016年同専攻博士後期課程修了.2014年日本学術振興会特別研究員DC1.2017年早稲田大学理工学術院次席研究員.2019年より同大学講師,現在に至る.電力市場・インセンティブ設計,CPHSに関する理論と応用などの研究に従事.2015年度SICE学会賞(論文賞)受賞.博士(工学).
受賞論文「電力取引システムにおけるプリンシパル・エージェント間の最適動的契約設計」
電力市場を介したアンシラリーサービスの保証を実現するためには,電力網ダイナミクスを考慮したプリンシパル・エージェント間の動的契約設計が不可欠である.従来経済分野で取り組まれていた動的契約設計問題では,プリンシパルがエージェントの入力パラメータを直接制御できる枠組みで解かれていた.他方,電力網ダイナミクスと実時間制御を考慮すると,間接的に最適制御を誘導する技術が必要となる.本研究では,まずリスク中立型およびリスク回避型プリンシパル・エージェントに対して,間接制御の制約を満たす動的契約設計問題を定式化し,その最適解が動的計画法を用いて理論的に導出できることを示した.最適な入力およびインセンティブが媒介変数化できたことが特徴である.また,LQG問題およびLEQG問題に限定した場合,その最適解がすべて解析解として得られることを示した.最後に,数値例を通してリスク回避度の変化に伴うインセンティブ効果の解析を行った.

ささはら はんぺい
笹原 帆平
2016年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了,同年より東京工業大学工学院博士課程に進学し現在に至る.2016年日本学術振興会特別研究員(DC).計測自動制御学会,システム制御情報学会,IEEEの会員.
受賞論文「レトロフィット制御器の状態空間における補償構造と双対性」
本論文では,大規模ネットワーク系に対する分散設計可能な制御器であるレトロフィット制御器が補償構造と呼ばれる構造を必ず持つことを示し,また自然に双対構造が導出されることを示す.レトロフィット制御器とは局所的なサブシステムのモデルだけを利用して設計可能な制御器であり,元のネットワーク系が安定であるならばレトロフィット制御器を導入した系の安定性を理論的に保証することができる.本稿ではレトロフィット制御器の一クラスとして出力調整型レトロフィット制御器を考えることにより,全ての出力調整型レトロフィット制御器が局所的な安定化制御器と補償器により構成されることを示す.また,双対として入力調整型レトロフィット制御器を考えると,制御器の内部構造にも同様の双対性が現れることを示す.最後に,数値例を通して各レトロフィット制御器の働きの違いを確かめる.

みやざわ さきこ
宮澤 咲紀子
1993年栃木県生.2016年東北大学工学部情報知能システム総合学科卒業.2018年東北大学大学院工学研究科電気エネルギーシステム専攻修士課程修了.自律分散制御に基づく生物模倣ロボットの研究に従事.
受賞論文「脚の切断状況に応じた歩行運動を生成可能な6脚ロボットの自律分散制御則」
昆虫は本当にすごい.彼らは限られた計算資源しか持たないにもかかわらず,多様な歩行パターン(歩容)を適応的に生成することができる.特に驚くべきことに,昆虫は一部の脚を失ったとしても,残存した脚で歩行運動を継続することが可能である.このような昆虫の歩行制御のメカニズムを解明することができれば,優れた耐故障性を有する脚式ロボットの創成につながると期待される.そこで本研究では,「昆虫は脚が切断された場合には,残存脚の接地位置を変化させて歩行を継続している」という生物学的知見に基づいて,昆虫の脚切断時の振る舞いを再現可能なモデルの構築を試みた.具体的には,残存脚の脚先軌道を「自脚と隣接脚との荷重量の差」に応じて変化させる自律分散制御則を考案した.提案制御則の妥当性検証のために行ったシミュレーション実験では,実際の昆虫が脚切断時に示すような,脚の接地位置の変化を定性的に再現することに成功し,両前脚の切断への適応性も確認できた.

なら さえ
奈良 莉紗
1995年東京都生.2018年慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業.同年慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻満倉研究室修士課程に進学し現在に至る.感性フィードバック制御系におけるむだ時間の抽出に関する研究に従事.
受賞論文「油圧ショベル掘削作業における感性フィードバック制御を目的としたストレス変動のむだ時間抽出」
建設現場におけるストレスは,深刻な問題となっている.油圧ショベルの騒音や振動を軽減することでストレスを低減する取り組みが既になされているが,操作性により生じるストレスは考慮されていないため,改善の余地がある.本研究では,感性アナライザから取得したストレス値による自動制御(感性フィードバック制御)を実現し操作性の改良を試みる.感性フィードバック制御は,ストレス値を元に制御パラメータの調整を行うことで操作のアシストを行う制御手法を指す.これにより,全ユーザーに対して操作が快適な機体を実現出来るのではないかと考える.また,油圧ショベル操作時におけるストレス変動のむだ時間は,感性フィードバック制御系におけるむだ時間に相当し,システムの安定化に深く関連しているため明らかにする必要がある.そこで,ストレス変動のむだ時間の定義及び値の抽出を行い,作業時間と共にむだ時間が長くなる傾向を示した.

みやき ゆうじ
宮木 悠二
1993年愛知県生.2017年3月東京工業大学学士課程修了.同年4月同大学修士課程に入学,現在に至る.空気圧アクチュエータ,空気圧バルブの研究に従事.
受賞論文「自励振動を誘発する柔軟小型バルブ:電気不要の移動ロボットを目指して」
本研究では,空圧駆動システムの簡素化・完全無電力化を目指して,電磁弁などの電気駆動弁を用いずに,圧力切替を行える自励振動式柔軟小型バルブを提案した.提案したバルブは,2本の偏平チューブ・永久磁石・結束部から成り,質量1.2 gサイズ55×7×8 mmの小型で柔軟な構造である.当該バルブの入力ポートに空圧源,2つの出力ポートにそれぞれ空圧アクチュエータを接続すると,2本の偏平チューブ間で永久磁石が自励振動し,アクチュエータに周期的な加減圧動作が生じる.この現象の有効性を検証するため,複数のソフトアクチュエータから成るハンデイサイズの移動ロボットにドライアイス圧力源と当該バルブを搭載し,動作実験を行った.その結果,空圧源のみで伸縮動作が周期的かつ継続的に誘発され,電気不要の自立型空圧移動ロボットを実現可能であることを実証した.

あんべ ゆういち
安部 祐一
2016年京都大学工学研究科博士後期課程研究指導認定退学.同年東北大学大学院情報科学研究科研究員,2017年同特任助教(研究),2018年同工学研究科助教となり,現在に至る.脚歩行ロボット,索状ロボットの運動制御の研究に従事.本学会論文賞・友田賞(2017),奨励賞(2018)などを受賞.IEEE,日本ロボット学会,日本機械学会などの会員.工学博士.
受賞論文「2軸能動空気噴射ノズルを持つ索状体の浮上制御方法の提案」
瓦礫などの狭隘空間における探査を目的として,能動スコープカメラを開発している.近年ではノズル方向が2方向に可変な2軸能動空気噴射ノズルを先端に搭載し,浮上させて瓦礫上のモビリティーを向上させることを目指している.しかし,単に先端から流体を噴射させるだけではロボットは暴れてしまう.また,噴射力を制御して浮上を安定化するのも,長い索状体に起因する時間遅れで困難である.
本研究では,空気の噴射方向を制御入力として,能動スコープカメラを安定に浮上させる簡単な方法を提案した.具体的には,空気の噴射方向を慣性座標系に対して常に一定し,先端の並進速度に応じて噴射方向を微小に変化させてブレーキさせる.本入力はシステムの保存力となり,定義したエネルギーの消散を保証できる.3次元動力学シミュレ―ションを用いて本制御で索状体が安定に浮上できることを確認した.さらに,実際に製作したロボットを用い,数種類の初期値を与えたとしても,ロボットが安定な浮上形状(平衡点)に収束することを示した.

ふくざき たくや
福崎 琢也
1994年福岡県生.2017年九州工業大学工学部機械知能工学科卒業.同年筑波大学大学院システム情報工学研究科知能機能システム専攻に進学し現在に至る.MR流体を用いた直動デバイスとセンシングの研究に従事.
受賞論文「小物体把持のための改質MR流体を用いるユニバーサルグリッパの開発」
外部環境の影響を受けず応答速度に優れたグリッパとして,MR流体を用いたグリッパが開発されている.本研究では,従来のMR流体を用いたグリッパが不得意であった小物体の把持を目的とする,改質MR流体を用いた産業用ロボットのグリッパを開発した.本ハンドは,先端の硬さを制御できる多指(MR指)から成る.MR指の先端部は,改質MR流体を封入した柔軟膜から成り,磁界の多寡によって改質MR流体の粘度を制御できる.指先端は直径25 mm以下であり,磁束密度を0.1 s以内に0.25 T以上変化させるための磁束回路構造を,永久磁石の回転機構によって実現した.実験では,壊れやすい対象物として,ウズラの卵やクッキーなどの把持,また,だし汁に浸ったおでんの把持などを行い,従来の改質MR流体を用いたグリッパの特長を継承しつつ,それが不得意としていた対象物の把持を可能にしたことを示した.

あべ けいた
安部 桂太
平成29年3月25日    東北大学工学部 機械知能・航空工学科卒業.同年4月1日東北大学大学院工学研究科 ロボティクス専攻博士課程前期2年の課程 入学
受賞論文「DNA反応拡散系によるゲル媒質中でのパターン形成」
パターン形成とは自律的に規則的な模様が現れる現象である.分子の反応と拡散による濃度変化を計算する数理モデルによってさまざまなパターンの形成過程が再現されている.受賞論文では合成DNAを用いてハイドロゲル中の反応と拡散の両方をプログラムし,自律的にパターンを形成するシステムについて報告した.合成DNAは塩基配列を設計することで溶液中の反応をプログラムすることができる材料として知られており,それを組み合わせた論理回路による情報処理が可能である.本研究ではこのDNA論理回路と拡散を抑制する機構を組み合わせることで2次元空間をボロノイ分割するシステムを構築した.ハイドロゲルを用いた実験により,拡散の抑制度を調整することで得られる分割パターンを変更できることを示した.

しみず とおり
清水 杜織
1995年埼玉県生.2018年東北大学工学部機械知能・航空工学科卒業.同年東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻博士課程前期2年の課程へ進学し現在に至る.永久磁石を活用した災害対応ロボット機構の研究に従事.
受賞論文「磁気復元力生成により内部補償を実現するマグネット機構」
「内部力補償型磁気吸着ユニット(IBマグネット)」は,永久磁石の吸着力をその距離特性と正負反転した特性の非線形ばねで補償し,吸着状態の切替を微小操作力で実現する機構として壁面吸着移動体などに利用されてきた.一方で,従来の非線形ばねは,線形ばねの組み合わせによるものが主で,特性の傾きから線形ばね群を選定し,正確な自由長を測定するまでばねの取り付け位置・作用開始位置を決定できず設計が複雑であった.また,多くの線形ばねを要し補償精度と機構容積がトレードオフであった.
そこで本研究では,非線形ばねの設計性と補償精度を飛躍的に向上させる手法として,吸着用磁石と同一の磁石同士の斥力を磁気ばねとして利用する方式を考案した.本方式は,2組の磁石のみで吸着力を理論上完全に補償できるため,ばねの選定が不要で部品数も著しく削減可能となる.試作実機の性能評価実験を通じて従来方式に匹敵する補償作用の有効性を確認し,強大な吸着力を簡潔な構造と微小な操作力で制御できる本機構の応用構造例を議論した.

たどころ ゆういち
田所 祐一
2017年東京工業大学理工学研究科機械制御システム専攻博士前期課程修了.同年東京工業大学工学院システム制御系博士後期課程に進学し現在に至る.独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC2).飛行ロボットをはじめとする非線形システムの幾何学的非線形制御,メカニズムの最適設計と最適制御の統合に関する研究に従事.
受賞論文「ヘキサロータ型全駆動UAVの構造の性質を利用した最適制御」
マルチロータをはじめとする飛行ロボットは,空中での作業や軽量貨物の高速運搬などへの幅広い応用が期待されている.本研究で制御対象とするヘキサロータ型全駆動UAVはロータを傾けて取り付けたマルチロータであり,従来のものとは異なり全方向に加速できる特徴を有する.この構造は,接触を伴う空中作業や精密な移動が要求される場面において有用である.
ロータの傾き角や位置などの構造パラメータを変化させると,機体の加速しやすい方向とその度合いが変化する.本研究ではこのことを利用して,用途に応じた構造の設計と制御を考察した.著者らは,加速の方向特性を特徴づける動的可操作性楕円体に基づいて,「得意な運動」を活用する幾何学的非線形最適制御則を提案した.また,最適制御問題の解である価値関数を構造パラメータの関数として解釈し直すことによって,用途に応じた制御目標から機体の構造設計と最適制御則を同時に実現する一手法を提案した.

ほりえ あらた
堀江 新
2017年 東京理科大学理工学部機械工学科卒業.2019年 東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻博士前期課程修了.現在,東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士後期課程.
受賞論文「高周波振動と非対称振動の複合出力による滑り方向・滑り速度の提示 第2報:非同期な振動の複合出力」
本研究では,滑り感覚を振動のみを用いて実現するために,非対称振動と高周波振動を独立に制御する手法を提案する.これまで,本研究室では高周波振動を用いた滑り感覚の提示に関する研究を行ってきた.しかし,高周波振動だけでは滑りの方向を提示することができない.そこで,本手法では非対称振動を高周波振動と複合的に出力することによって,方向も含めた滑り感覚を提示する.
提案手法の有効性を示すため,高周波振動に加えて非対称振動を提示できる非接地な装置を作成し,滑り方向の知覚と滑り速度に関する実験を行った.結果として,定常的な非対称振動に高周波振動を付加することによって滑り方向と滑り速度の知覚が可能であることが示唆された.

さいとう あつし
齋藤 淳史
1984年東京都生.2007年東京都立大学工学部電気工学科卒業.2012年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了.日本学術振興会特別研究員を経て,2013年より一般財団法人電力中央研究所主任研究員,現在に至る.電磁界に対する刺激閾値の評価に関する研究に従事.博士(科学).
受賞論文「中間周波磁界に対する神経刺激応答評価手法の開発」
時間変動する低周波~中間周波帯(主に1 Hz~100 kHz)の電磁界は,生体神経系に対して刺激作用を与える.そのため,神経刺激応答の閾値は,人体防護ガイドラインを策定するための科学的根拠として用いられている.しかし,広範な周波数を網羅する実験データの収集は困難であり,特にワイヤレス電力伝送技術等に関連する10 kHz以上の周波数帯については,刺激閾値に関する生物学的知見の不足が指摘されている.
本研究では,高電磁環境に適用できる非導電性ファイバー型蛍光観察システムを新規開発し,20 kHzの中間周波磁界に対する神経細胞の刺激誘発応答をCa蛍光イメージングによりリアルタイムで検出することに成功した.また,磁束密度分布から神経細胞へのばく露量(誘導電界強度)を導出できる数値ドシメトリ手法を開発し,無髄神経線維における刺激閾値を推定した.本成果は,将来のガイドライン改定に際して,科学的根拠の精緻化に寄与することが期待できる.