2015年度計測自動制御学会学会賞 学術奨励賞の贈呈
(2016年2月23日,第6回定時社員総会会場において贈呈)

(学術奨励賞・研究奨励賞)10名
○生体計測のためのマルチピンホール蛍光X線CT
(第32回センシングフォーラムで発表)
山形大学 笹谷典太君

○確率的ポリトープの概念的拡張とロバスト安定化設計
(第57回自動制御連合講演会で発表)
京都大学 細江陽平君

○マルチタイムスケール動的電力価格に基づく地域別電力需給管理
(第2回制御部門マルチシンポジウムで発表)
慶應義塾大学 大川佳寛君

○マルコフパラメータマッチングに基づく離散時間線形システムの多時間分解能制御
(第2回制御部門マルチシンポジウムで発表)
東京工業大学 JST CREST 加藤拓朗君

○RSA暗号に基づくネットワーク制御系のセキュリティ強化
(第57回自動制御連合講演会で発表)
奈良先端科学技術大学院大学 藤田貴大君

○環境からの手応えを活用した一次元這行運動の自律分散制御
(東北支部第293回研究集会で発表)
東北大学 千葉大徳君

○空中映像と高速3Dジェスチャー認識技術の統合による直感的操作可能なインタラクションシステム
(第15回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京大学 安井雅彦君

○ソフトアクチュエータの自動配置によるプリンタブルロボットの設計支援
(第15回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京大学 糸谷侑紀君

○Twin構造チューブによる配管内探査ロボットとその災害対応への応用
(第15回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京工業大学 楯  貴志君

○放射線治療のための混合正規分布モデルを用いたX線透視画像シーケンスからの腫瘍輝度成分の抽出・強調
(東北支部50周年記念学術講演会で発表)
東北大学 澁澤直樹君

(学術奨励賞・技術奨励賞)5名
○Siウエハを用いた新しい光ファイバ形温度センサ
(第32回センシングフォーラムで発表)
(株)チノー 寺田大亮君

○3視点拘束に基づくセグメントパターン投影型リアルタイム3次元センシング
(第15回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京大学 田畑智志君

○気体高圧力標準の開発と国際同等性の確保
(第32回センシングフォーラムで発表)
産業技術総合研究所 飯泉英昭君

○衛星姿勢/アンテナ協調制御及びアンテナアライメント誤差推定に関するALOS-2軌道上評価結果
(第57回自動制御連合講演会で発表)
三菱スペース・ソフトウエア(株) 上野竜雄君

○位相コントラストCTのラプラシアンに基づいた投影削減アルゴリズム
(第32回センシングフォーラムで発表)
群馬大学 砂口尚輝君

受賞者略歴および受賞論文概要

ささや てんた
笹 谷 典 太 君(学生会員)
1990年北海道生.2012年山形大学工学部応用生命システム工学科卒業.同年(株)富士通ビー・エス・シー入社.13年山形大学理工学研究科応用生命システム工学専攻に入学し現在に至る.生体画像計測の研究に従事.

受賞論文「生体計測のためのマルチピンホール蛍光X線CT」
本研究グループではこれまでに,核医学検査に代わる新しい分子イメージングモダリティとして,ピンホールを用いた3次元蛍光X線CTを開発してきた.しかし,ピンホールを通過する蛍光X線は僅かであるため,麻酔持続時間(90分)内の短時間撮像では前臨床研究に要求される微量な造影剤元素の描出は困難であった.
本研究では,1投影あたりの検出光子数を増やすため,15個のピンホールを有するマルチピンホール撮像系と,各ピンホールと被写体の位置関係を推定する高精度キャリブレーション法を考案した.高エネルギー加速器研究機構PF-ARのビームラインNE-7Aに構築した撮像システムでの実験を通して,マウスの脳血流イメージング等に必要とされる0.05mg/ml以下のヨウ素の検出限界濃度を,90分の撮像時間で得られたデータから実現した.また,ピンホールの位置と再構成画像の画質の関係を考察し,ピンホールの配置を最適化することによって,コンプトン散乱線の影響を低減可能であることがわかった.以上の結果より,マルチピンホール蛍光X線CTによるin vivo計測の実現可能性が示された.

ほそえ ようへい
細 江 陽 平 君(正会員)
1987年岐阜県生.2009年京都大学工学部電気電子工学科卒業.11年京都大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了,13年博士後期課程修了.同年京都大学大学院工学研究科助教,現在に至る.ロバスト制御などの研究に従事.京都大学博士(工学).システム制御情報学会,IEEEの会員.

受賞論文「確率的ポリトープの概念的拡張とロバスト安定化設計」
確定的なダイナミクスをもつ系として記述することが難しい対象を扱う場合,しばしばそれを確率系とみなしてモデル化することが行われる.しかし,通常の確定系のモデル化と同様に,確率系のモデル化においてもモデル化誤差が生じることは避けられない.とくに,確率系においてはその背後にある確率分布に関してもモデル化誤差が生じうる.よってその制御では,背後の分布に関しても不確かさを想定し,ロバスト性を確保することが重要である.そのような不確かさを表現するのに,確率的ポリトープと呼ばれる概念が有用である.本研究では,表現可能な不確かさのクラスを広げることを目的に,確率測度の観点から上記概念を拡張することを考えた.より具体的には,確率的ポリトープの(ランダム行列で与えられる)端点の分布を決める累積分布関数が,複数の関数の凸結合で与えられる状況を考えた.そして,そのように拡張された確率的ポリトープで特徴づけられる不確かな確率系に対して,ロバスト安定化状態フィードバック設計のための不等式条件を導出し,設計の数値例を示した.

おおかわ よしひろ
大 川 佳 寛 君(学生会員)
1988年神奈川県生.2012年慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業.13年慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻前期博士課程修了.同年同大学大学院後期博士課程に進学し現在に至る.ロバスト制御理論, 分散協調制御理論とその電力ネットワークにおける動的電力価格決定への応用に関する研究に従事.

受賞論文「マルチタイムスケール動的電力価格に基づく地域別電力需給管理」
電力自由化により,次世代電力網(スマートグリッド)においては電力供給者だけでなく電力需要家も市場参加者として主体的に電力市場取引に参加することが可能となる.しかしながら,電力系統を安定して運用するためには系統内の電力需給量を常に一致させる必要がある.本研究ではこの問題に対し,前日市場と当日市場の複数の異なる時間幅(マルチタイムスケール)を対象とした電力市場を統合的に扱うための動的電力価格決定に基づく地域別電力需給管理手法の提案を行った.具体的には,本提案手法ではまず前日市場において,電力価格を介した市場取引により翌日の地域別・時刻別の電力需給量の決定を行う.そして当日市場において,需要家に対して前日市場で決定された電力価格に基づいたインセンティブを与えることで電力需要量の削減を促し,系統内の発電誤差に対する電力需給調整を分散的に行う.さらに本研究では電力系統モデルを用いた数値シミュレーションを行い,提案手法の有効性を確認した.

かとう たくろう
加 藤 拓 朗 君(学生会員)
2015年東京工業大学工学部制御システム工学科卒業.同年同大学大学院情報理工学研究科修士課程に進学,現在に至る.

受賞論文「マルコフパラメータマッチングに基づく離散時間線形システムの多時間分解能制御」
本論文では離散時間線形システムに対する多時間分解能制御系を設計する.まず,Wedderburnの低階数分解と呼ばれる行列分解法を用いて低階数モデルを導出する.つぎに,この低階数モデルを用いた冗長な状態空間表現に基づき,より良い過渡特性を有する安定化補償器を設計する.ここで,低階数モデルをもとのシステムと同じ可到達部分空間および可観測部分空間をもつように求めることにより,過渡的な振る舞いと残余の振る舞いを陽に考慮した多時間分解能制御系を系統的に設計できる.また,配電系統の局所的な事故を想定した周波数変動の整定に関する数値シミュレーションを行い,提案する多時間分解能制御系の有効性を示す.

ふじた たかひろ
藤 田 貴 大 君(正会員)
2011年神戸市立工業高等専門学校 電気電子工学専攻卒.同年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に入学.制御系のセキュリティに関する研究に従事.15年横河電子機器(株)に入社.現在に至る.

受賞論文「RSA暗号に基づくネットワーク制御系のセキュリティ強化」
現在,われわれの生活を支える重要インフラの制御システムは,ネットワーク化が進んでいる.ネットワーク化は,制御システムに多大な恩恵を与える一方,サイバー攻撃という新たな脅威を呼び込むことになった.ネットワーク制御系のサイバー攻撃対策としては,従来よりネットワークの通信路上のみを対象とした暗号化が議論されている.しかし,これらの従来研究では,制御器において制御入力を決定するために,一度復号を行っており,制御器の内部では暗号化されない情報が扱われる.このため,攻撃者が制御器への不正アクセスを行った場合,情報流出の危険性があった.
そこで本研究では,ネットワーク制御系のセキュリティ強化を目的とし,制御器内部の情報を暗号化したまま演算が可能な暗号化制御則の概念を提案した.特に,RSA 暗号方式の準同型性を用いて,比例制御に対する暗号化制御則が実現できることを示し,数値シミュレーションにより提案法の有効性を確認した.

ちば ひろのり
千 葉 大 徳 君(学生会員)
1991年北海道生. 2015年東北大学工学部情報知能システム総合学科卒業. 同年東北大学大学院医工学研究科医工学専攻に入学し現在に至る.生物摸倣ロボットの研究に従事.

受賞論文「環境からの手応えを活用した一次元這行運動の自律分散制御」
生物は,複雑な未知環境においても,驚くほど適応的かつレジリアントにロコモーションを生成する.このような振る舞いは自律分散制御により実現されていることが示唆されているが,その核となる制御メカニズムはいまだに解明されていない.そこで筆者らは,先行研究においてクモヒトデのロコモーションに着目し,力学的相互作用に焦点を当てて自律分散制御メカニズムに関する考察を行った.そして,環境からの反力が推進に利するものであるか否かをリアルタイムに峻別し,推進に利する反力のみを選択的に活用することが可能な自律分散制御則を抽出した.本研究では,先行研究において提案した制御則が他の生物のロコモーション様式に適用できるかを検証するため,身体の伸縮波を伝搬させながら推進するミミズの這行運動に提案制御則を適用した.シミュレーションの結果,ミミズの這行運動に類似する動きを再現することができた.

やすい まさひこ
安 井 雅 彦 君(学生会員)
1989年大阪府生.2013年東京大学工学部計数工学科卒業.16年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程修了.3次元計測技術に関する研究,高速画像処理に基づくインターフェースの研究に従事.

受賞論文「空中映像と高速3Dジェスチャー認識技術の統合による直感的操作可能なインタラクションシステム」
近年,3D映像形成技術の発展に伴って,空中像インタラクションシステムに関する研究が盛んに行われている.しかしながら,依然として既存のシステムでは,専用のアイウエアやスタイラスのように空中像と操作者との間にデバイスの介在を必要とするために操作感が損なわれる点や,操作に対して遅延時間が大きいことで違和感を与え,操作性を損なう点など,種々の問題が存在していた.本研究ではAIRRと呼ばれる空中像形成技術と,高速2眼カメラを用いた高速ジェスチャー認識技術を用いて,以上の問題を解消した.AIRRによって,アイウエアの着用を必要としない空中像を形成した.さらに,高速ジェスチャー認識技術により,スタイラスなどのデバイスを必要としない,素手による無拘束な操作を可能とし,遅延時間による違和感が少なく,高い操作性を実現した.本研究では,以上のシステムを実装することで,自由度の高い操作が可能な空中像インタラクションシステムを実現した.

いとたに ゆき
糸 谷 侑 紀 君(学生会員)
1991年東京都生.2014年東京大学工学部機械情報工学科卒業.同年東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻修士課程に進学し現在に至る.

受賞論文「ソフトアクチュエータの自動配置によるプリンタブルロボットの設計支援」
ロボットの設計・製作にかかるコストや時間を短縮するため,平面上に構成でき,製作後に変形して3次元構造をとるプリンタブルロボットの研究が行われている.しかし,アクチュエータを適切に配置したロボットのデザインを行うためには多くの試行錯誤が必要であった.そこで本研究では,ロボットの望みの形状と動きを3D CGアニメーションとして入力し,シート状のプリンタブルなソフトアクチュエータを自動配置することで,プリンタブルロボットの自動設計を実現した.具体的には,3Dアニメーションから回転部と並進部の幾何学情報を検出し、アクチュエータのスケーリングと自動配置を行って,ロボットの図面を自動生成した.実際に,提案システムを用いて設計された単純関節の動作を確認し,また,多関節ロボットグリッパーの設計支援と製作を行った.

たて たかゆき
楯 貴 志 君(学生会員)
1990年宮崎県生.2014年東京工業大学制御システム工学科卒業.同年東京工業大学大学院機械制御システム専攻修士課程に進学し現在に至る.空気圧を用いた狭隘環境探査ロボットに関する研究に従事.

受賞論文「Twin構造チューブによる配管内探査ロボットとその災害対応への応用」
老朽化した地中配管の損傷が大きな問題である一方,損傷部の正確な位置把握は難しく,従来は配管を地中から掘り起こし,目視によって損傷場所を確認,取り替えを行っていた.しかしこれには多大なコストが必要となるため,配管を掘り起こすことなく損傷位置や損傷具合を確認できる装置が求められている.
そこで本研究では,平行に配置した柔軟な2本のチューブと,それらをつなぐ,座屈させた扁平チューブ(チューブを扁平状に塑性変形させたもの)から構成された,空気圧で配管内を推進する探査ロボットを開発した.推進は,2本のチューブのうち片側を加圧し,扁平チューブの座屈点が前進することにより,非加圧側のチューブが牽引され,これを2本のチューブで交互に繰り返すことで実現している.空気圧駆動にすることで,
・曲率半径の小さな曲がり配管や,従来困難であったU字配管への対応が可能
・分岐点などでのあらゆる方向への方向選択が可能
といった利点を生み出すことに成功した.

しぶさわ なおき
澁 澤 直 樹 君(正会員)
1990年群馬県生.2013年東北大学工学部情報知能システム総合学科卒業.15年東北大学大学院工学研究科電気エネルギーシステム専攻修士課程修了.同年(株)リコーに入社.現在に至る.受賞論文は東北大学在学時の研究である.

受賞論文「放射線治療のための混合正規分布モデルを用いたX線透視画像シーケンスからの腫瘍輝度成分の抽出・強調」
肺がんの放射線治療では腫瘍が呼吸により移動するため,腫瘍位置をリアルタイムに計測し,照射を制御することが求められる.体内腫瘍の計測には治療装置が備えるX線透視装置が利用可能である.しかし,X線画像中で,腫瘍の輝度値は骨やそのほかの組織に重畳して不明瞭かつ低コントラストに描出されるため,腫瘍位置の正確な画像計測には困難が伴う.本研究では,より正確な腫瘍位置計測を実現するため,X線画像シーケンスから腫瘍の輝度成分を抽出・強調する方法を提案した.提案法では,X線画像シーケンスを混合正規分布モデルで表わし,X線画像の性質を考慮した背景差分により,動きの異なる複数の画像層に逐次分離することで腫瘍輝度成分を抽出する.模擬データを用いた検証実験より,類似手法と比べて提案法の抽出結果は良好であることが確認された.また,臨床データから抽出・強調した腫瘍輝度成分を用いた計測実験の結果より,腫瘍位置の計測性能向上が確認され,提案法の有効性が示された.

てらだ だいすけ
寺 田 大 亮 君(正会員)
1986年愛知県生.2009年電気通信大学電気通信学部量子・物質工学科卒業.11年電気通信大学大学院電気通信学研究科量子・物質工学専攻修士課程修了.同年(株)チノー入社.現在に至る.温度センサ及び光センサの開発に従事.

受賞論文「Siウエハを用いた新しい光ファイバ形温度センサ」
近年,半導体材料製造諸プロセスにおいて放射温度計を用いたSiウエハの非接触温度計測手法の開発が広く進められている.しかし,Siウエハは,波長と温度域によって半透明体の特性を示すことから,放射測温法の適用を困難なものとしている.本研究で筆者は,Siウエハの透過特性の温度依存性を逆手に取り,光ファイバに埋め込んだSiウエハの分光透過特性を利用した新たな温度センサを開発した.計測手法は(1)Siのバンドギャップの温度変化による,赤外線吸収端波長のシフト,(2)温度によるSiの減衰特性の変化のいずれかを計測し,温度換算する.また,本温度センサは,透過形と反射形の2種を有し,現時点での測温可能な温度領域は-196℃(液体窒素沸点)から650℃である.測温部に電気的な構造がなく,光による計測であることから,引火性ガスないし電気的雑音の多い環境下,また腐食性雰囲気での測温に特に有効であると考える.

たばた さとし
田 畑 智 志 君(学生会員)
1991年千葉県生.2014年東京大学工学部計数工学科システム情報工学コース卒業.16年東京大学大学院情報理工学系研究科スシステム情報学専攻修士課程修了.同年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻博士後期課程に進学し現在に至る.高速画像処理を用いた3次元計測の研究に従事.

受賞論文「3視点拘束に基づくセグメントパターン投影型リアルタイム3次元センシング」
近年, 3次元形状取得技術が様々な分野の応用で重視されている.従来はオフラインでの処理やビデオレートである30fps程度の速度で取得する手法が用いられている.しかし, ロボティクスやユーザインタフェースなどの応用においてはビデオレートを上回る, 高速応答性が重要である.特にリアルタイムの形状取得が可能となれば, 即時性を要求する幅広い分野での応用が期待できる.本研究では, 3視点幾何によるエピポーラ拘束と階層処理を組み込むことで, ロバストかつ高速に3次元点群を取得できることを示した. また, 3視点幾何による制約を利用した独自のパターンとしてセグメントパターンを提案した. さらに, 高速3次元センシングの応用としてモジュールを手先に装着するウェアラブル応用に着目し, 2台のカメラと1台のプロジェクタによって構成される小型モジュールの開発を行った. 本モジュールを用いて, 数msで形状を取得可能であることを示した.

いいずみ ひであき
飯 泉 英 昭 君(正会員)
1987年生. 2010年筑波大学第一学群自然学類卒業. 12年筑波大学大学院数理物質科学研究科物理学専攻博士前期課程修了. 同年,産業技術総合研究所入所. 現在,計量標準総合センター 工学計測標準研究部門 圧力真空標準研究グループ 研究員. 気体高圧力標準に関する研究開発に従事.

受賞論文「気体高圧力標準の開発と国際同等性の確保」
70 MPa超の水素を利用する燃料電池自動車をはじめとして,高圧気体に対する信頼性の確保された圧力測定の需要が近年増加している.この需要に対応するため,国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)では,気体圧力標準の最大圧力をこれまでの7 MPaから100 MPaまで拡張するための開発を行ってきた.本研究では,液体潤滑型重錘形圧力天びんを標準器として,100 MPaまでの気体高圧力校正システムを開発した.また,国際同等性確保のため,米国の国家計量標準研究機関であるNISTと国際比較を実施した.産総研とは異なる方法で気体高圧力標準を開発したNISTと比較をすることで,それぞれの標準の信頼性を検証できる.より正確な比較を行うため,仲介器として用いる2台の高精度圧力計の特性を評価し,測定値の補正や不確かさの算出を行った.この国際比較の結果,10 MPaから100 MPaまでの圧力において,日本と米国の気体高圧力標準の同等性が確認できた.

うえの たつお
上 野 竜 雄 君(正会員)
1982年東京都生. 2006年山形大学工学部機械システム工学科卒業, 08年横浜国立大学大学院環境情報学府環境システム学専攻博士課程前期修了. 同年三菱スペース・ソフトウエア(株)入社 現在に至る.

受賞論文「衛星姿勢/アンテナ協調制御及びアンテナアライメント誤差推定に関する ALOS-2 軌道上評価結果」
陸域観測技術衛星 2 号(ALOS-2)は,2014 年5 月24 日に宇宙研究開発機構(JAXA)によって打ち上げられた合成開口レーダ衛星である.ALOS-2 には前号機の「だいち」同様,静止軌道上のデータ中継技術衛星経由で,地上にデータ送信可能な衛星間通信系(DRC: Data Relay and Communication)が搭載されている.ALOS-2のDRCアンテナでは,衛星搭載性向上のため小型・軽量化を実現できるよう,「だいち」で採用されていたRF追尾受信機を削除しているため,DRCにおいてプログラム追尾方式のみの制御系としている.しかし、本方式はDRCアンテナの指向誤差を補償する仕組みがないため,新たにDRCアンテナ指向アライメント誤差推定方法を確立,十分な精度の誤差同定が実現可能であることを軌道上実証した.さらに姿勢軌道制御系との協調制御も行うことによりDRCアンテナ駆動に伴う衛星姿勢変動を補償し,アンテナ駆動を行った場合も衛星姿勢への影響を低減,観測運用を継続可能であることを軌道上実証した.

すなぐち なおき
砂 口 尚 輝 君(正会員)
2004年山形大学工学部卒,06年同大大学院理工学研究科博士前期課程修了.同年(株)日立メディコ入社.09年同大大学院理工学研究科博士後期課程修了.同年日本学術振興会特別研究員PDとして高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所に所属.12年群馬大学理工学研究院助教. 博士(工学).生体画像計測の研究に従事.応用物理学会,日本放射光学会などの会員.

受賞論文「位相コントラストCTのラプラシアンに基づいた投影削減アルゴリズム」
本研究では,位相コントラストX線CT(PCCT)の投影削減に有効であるラプラシアンに基づいたCT再構成アルゴリズムを提案した.その理論的根拠となる「ラプラシアン化されたPCCT(Δδ)のラドン変換が2階微分投影となる」という事実を証明した.この事実に基づき,2階微分投影からラプラシアン像Δδを,Total Variation (TV)正則化を伴うART再構成(ART+TV)により再構成した.TVには,Shepp-Loganファントムのような区分的に一様な構造をもつ画像には有効であるが,画素値が不規則に変化するテクスチャ構造をもつ画像では,過剰に平坦化してしまうことが知られている.Δδはδと比べて十分に値が平坦であるため,この問題を回避できTV正則化を有効に働かせることができる.本手法をシミュレーションや生体組織の撮像データに適用し,少数投影からの良好に再構成できることを示した.