会長挨拶
「会長就任にあたって」―「さいす学」と「ふぇすてぃばる化」 ―

大阪大学
大須賀 公一
このたび,計測自動制御学会(SICE)の第64期会長を拝命いたしました.何卒よろしくお願い申し上げます.
現在,学会や大学を取り巻く環境は大きく変化しています.短期的な成果が求められる傾向が強まり,長期的な基礎研究の推進がますます困難になっています.また,多くの学会で会員数の減少が顕著となり,SICEも例外ではありません.その要因として私は,学会の成熟に伴う保守性と,それが社会との間に生じさせている見えない壁の存在ではないかと考え,この「保守性と壁を取り払うこと」が重要な課題だと感じています.そのための方策として,①国際化・グローバル化の推進,②会員となるメリットの明確化と魅力的な企画の立案,③会員数倍増を目指した計画の策定,などが考えられます.しかし,これらは技術的・戦略的には重要ですが,やや表層的な取り組みにとどまる可能性があります.そこで,一旦立ち止まり,「そもそもSICEとは何か」「SICEのあるべき姿とは」といった,より根本的な問いに向き合ってみてはどうでしょうか.そうすることで,結果として,上記の課題に対するより本質的で効果的な解決策が見えてくるかもしれません.
まず,「そもそもSICEとは」について考えてみます.本学会のミッションは「計測・制御・システムの中核学会として,① 諸分野を横断し,知を究め,新たな価値を創造する.② 関連分野および産官学のハブとなり,発信・連携を通じて社会的課題の抽出・解決に貢献する.」と定義されています.このミッションに全く異論はありません.しかし,「計測・制御・システムの中核学会」という表現だけでは,SICEの活動や存在意義が既存の学問体系に依拠しており「内向的」に感じられ,新たな学問体系を発信しているという印象を受けにくいのは私だけでしょうか.確かに,現時点の静止画的視点ではそのように見えるかもしれません.しかし,SICEが目指すものは,より奥深く,抽象的なものなのではないでしょうか.
私たちは,「モノゴトを巧みに操りたい」という本質的な探求心をもっています.これは制御の定義そのものであり,社会的欲求でもあります.したがって,そのための方法論を探求し,構築することこそがSICEの使命であり,そのためには,あらゆる可能性を受け入れ,新たな可能性を生み出し,常に進化する学問領域を築いていく必要があります.
この視点に立つと,SICEの本質は「モノゴトを巧みに操るための共通の方法論を探求・構築し,そのために新しい概念・手法・理論を生み出し,それを実現できる人材を継続的に育成すること」と表現できます.これらの活動の総体がSICEであり,そこから築かれる学問体系を「さいす学」と呼ぶことができます.これはSICEの再定義とも言えますが,この時点では具体的な学問領域や実践方法には踏み込みません.この点は,「SICEのあるべき姿とは何か」という問いに深く関わる重要な要素となるからです.
では「SICEのあるべき姿」とは何か.重要なのは,①「さいす学」の描像を明確にすること,②それを実現するための「SICEの活動方法」をどう構築すべきか,の二点です.
まず,「さいす学の描像」についてです.そもそも「さいす学」とは,モノゴトを巧みに操りたいという欲求を満たすために,あらゆる方法論を取り込み,融合し,常に新たな学問領域を追求する学問であると捉えられます.より具体的には,計測・制御・知能・SI・システム・情報・・といった時代とともに刻々と姿を変えながら立ち現れる先端工学領域に加え,数学・物理・生物・社会・哲学といった基礎領域も土台としながら,絶えず進化し続けるダイナミックな学問構築活動であると考えられます.
次に,「SICEの活動方法」についてですが,現在SICEが進めている,2024年に始まった「SICE Annual Conference(SICE AC)」の『「SICE Festival with Annual Conference(SICE FES)」化』の方法論が鍵となるでしょう.SICE FESの設計コンセプトは,「SICE ACを中核とし,その周囲にSICEの存在を社会へ強く印象づける多彩な企画を融合させることで,SICEの活動と社会をシームレスに結びつける」ことです.この「FES化」という方法論の本質は「中心となる軸を明確にしつつ,その周辺に柔軟な要素を取り入れる」という考え方です.これを「ふぇすてぃばる化」と呼ぶならば,SICE FESに限らず,SICEの様々な活動に展開できるのではないでしょうか.それにより,「見えない壁」がなくなり,「内向的で閉塞的」になりがちなSICEの活動が「外向的で開放的」になることが期待されます.たとえば,これまでSICEが行ってきている様々な講習会,部門大会,支部講演会などを「ふぇすてぃばる化」することからはじめ,最終的には全てのSICE関連イベントを「ふぇすてぃばる化」することを目指すのも一案です.いわば「SICEの‘ふぇすてぃばる化運動’を展開する」とでも言いましょうか.
以上,本年度は,産学連携や学会誌などのデジタル化などの既存の取り組みを継続しつつ,「そもそもSICEとは」「SICEのあるべき姿とは」という根本的な問いに向き合い,SICEの社会へのアピールをより強化していく所存です.会員の皆様のご支援とご鞭撻を心よりお願い申し上げます.
学会概要
- 会員数
- 正会員: 3,728名
- 准会員: 39名
- 学生会員: 444名
- 賛助会員: 168社 (212口)
(2025年3月10日現在)
- 2025年度 役員名簿
- SICE組織図(PDF)
- 支部活動、部門活動、委員会、事務局
会員募集
計測自動制御学会では会員を募集しております。皆様のお近くのかたで入会ご希望のかたがおられましたら、ぜひ入会をすすめてくださいますようお願いいたします。
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