Vol.50,No.4
論文集抄録
〈Vol.50 No.4(2014年4月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 生産情報との連携による工場エネルギー管理システムとその実装評価
- ■ 半導体ウェハ搬送ロボットへの Preshaping 制御の応用と実験検証
- ■ 3波長ワンショット干渉計測における最適波長選択と測定レンジ拡大
- ■ 積分器を有するシステムの同定について
- ■ 状態拘束のあるモデル予測制御に対するセミスムーズニュートン法を用いた高速解法
- ■ 時系列判別成分分析に基づく次元圧縮型リカレント確率ニューラルネット
- ■ 知的PID制御系のデジタル実装に関する一考察
- ■ 3次元位置・姿勢協調制御-有向グラフ構造における必要十分条件の導出-
[ショート・ペーパー]
[論 文]
■ 生産情報との連携による工場エネルギー管理システムとその実装評価
三菱電機・加知 光康,吉本 康浩,北上 眞二,東京電機大学・小泉 寿男
東日本大震災を契機とする電力供給不足への対策として,工場においても省エネルギーの一層の推進が求められている。工場のエネルギー管理としては、生産情報と関連付けたエネルギー情報の可視化と分析が欠かせない.しかしながら,従来から工場においては、生産情報とエネルギー情報は別々に収集されることが多く,これらの情報を後から関連付けるためには,多くの時間と労力を必要としていた.また,生産品目や生産ラインのレイアウトなどの変更によって,過去のエネルギー消費実績や他の生産ラインとの比較が困難となるという課題があった.本稿では,工場の生産情報とエネルギー情報を融合することによって,きめ細かいエネルギー分析を可能とするエネルギー管理システムを提案する.本システムでは,生産ラインに組み込まれたPLC (Programmable Logic Controller) が、データ計測時に生産情報とエネルギー情報の紐付けを行う.また,この情報を用いて、製品1個を生産するために必要とするエネルギー原単位を計算し可視化すると共に,設備単位のエネルギー消費のドリルダウン分析を可能とする.本研究では,実稼動する工場の遮断器生産ラインに提案方式を適用し,その有効性の評価を行った.
■ 半導体ウェハ搬送ロボットへの Preshaping 制御の応用と実験検証
豊橋技術科学大学・山下 貴仁,Wisnu ARIBWO,内山 直樹,寺嶋 一彦,
シンフォニアテクノロジー・増井 陽二,佐伯 亨
需要の拡大する半導体製品の生産においては生産性の向上,低コスト化,高品質化が求められている.これらを実現するため,高速搬送によるサイクルタイムの短縮と正確な位置決めによる高精度,高加工品質が求めらている.半導体製品など生産工程で用いられる搬送ロボットはほとんど外乱を受けることのないクリーンルーム内で用いられることが多くロバスト性の要求は大きくない.そのためフィードフォーワード制御による振動抑制が有効である.本稿では搬送ロボットにPreshaping制御を適用し,任意の軌道に対し振動抑制効果を付加する手法を提案する.まず,搬送用ロボットの指令値である関節角速度にPreshaping制御を適用した場合の振動抑制効果と軌道に変化が生じる問題について述べる.次に,軌道の変化を生じさせずにPreshaping制御を適用するために開発した手法を説明し,実験により両者の比較を行い、提案制御手法の有効性を示す.
■ 3波長ワンショット干渉計測における最適波長選択と測定レンジ拡大
東レエンジニアリング・北川 克一
光干渉に基づく表面形状測定法において,耐振動性向上のために,参照面を傾斜させてキャリア縞を導入し,1枚の縞画像から三次元形状を求めるワンショット干渉法が提案されている.しかし,この方法は,位相シフト法と同じく,得られた位相から高さを求めるに際して,位相アンラッピングを必要とするため,隣接画素間の許容段差に制限があり,大きな段差のある測定対象には適用ができな
い.この問題の解決法として,複数波長を使用する方法が提案されているが,その波長の最適化問題に対する明快な解法は報告されていない.
筆者らは,3波長ワンショット干渉法の測定レンジ拡大を目的として,位相アンラッピングにおける合致法を解析し,位相誤差が与えられた時に,任意の波長の組み合わせにおける測定レンジが推定できる手法を見出した.これにより,波長の最適な組み合わせを探索することが可能になった.市販カラーカメラの使用を前提に最適波長を探索し,470nm(B)-560nm(G)-600nm(R)を選定した.この波長を
用いた実験により,8マイクロメートルの標準段差試料の表面形状が安定に測定可能なことを確認した.本提案手法は,多波長位相シフト法など,他の多波長干渉計測にも適用可能である.
慶應義塾大学・竹下 侑,東芝・川口 貴弘,慶應義塾大学・足立 修一
近年,モデルベースト制御の発展に伴って,入出力データから対象の数学モデルを構築するシステム同定理論がさまざまな分野で注目されているが,システム同定によって高精度なパラメータ推定値を得るためには,測定された入出力データの前処理を適切に行うことが重要である.
また,剛体の運動やDCモータをはじめとして,さまざまな分野で存在する積分器を有するシステムは,不安定で無定位系であるためにその同定問題は容易でない.積分器を有するシステムを同定する場合,フィードバックループを付加して閉ループシステム同定を適用することが多いが,本論文では開ループシステム同定することを考える.ただし,積分器を有するシステムに特化した前処理法やモデリング手法というものはまだ提案されておらず,積分器の存在により,入力に潤沢な低周波成分が含まれていないとパラメータの推定精度を劣化させてしまう懸念がある.
そこで,本論文では積分器を有するシステムの開ループ同定問題を取り上げ,対象が積分器を有する場合に対する前処理法と同定法を提案する.適切な前処理後にシステム同定を行なうことで,高精度な同定結果を得ることができることを明らかにする.
■ 状態拘束あるモデル予測制御に対するセミスムーズニュートン法を用いた高速解法
名古屋大学・鈴木 脩平,田地 宏一
モデル予測制御は,各時刻で最適制御問題を解くことにより制御入力を決定する方法である.このため,実時間制御を行うためには計算時間の短縮が必須である.本論文では,上下限拘束のあるモデル予測制御問題に対し,相補性問題やKKTシステムによく用いられているセミスムーズニュートン法を適用した高速解法を提案した.モデル予測制御での最適化問題は通常,二次計画問題となることが多いが,セミスムーズニュートン法は一般的なQPソルバである内点法やアクティブセット法などと同様に大域的収束する.さらに,初期点を自由に選べる特徴があるため,提案手法はいわゆるホットスタートが非常に有効に働くという利点がある.また,速い収束であるアルゴリズムの二次収束性と直結するヤコビ行列の正則性条件を導くことにより,状態制約がモデル予測制御問題を計算に影響を与える理由を明らかにした.最後に,詳細な計算実験により,提案手法の実用性を示した.
■ 時系列判別成分分析に基づく次元圧縮型リカレント確率ニューラルネット
広島大学・早志 英朗,横浜国立大学・島 圭介,
広島大学・芝軒 太郎,栗田雄一,辻 敏夫,
本論文では,入力データの時系列特性を考慮して圧縮・識別可能な新しい時系列パターン識別モデル,時系列判別成分分析(Time-series DiscriminantComponent Analysis: TSDCA)を提案するとともに,TSDCAをネットワーク構造に展開した新しいリカレント確率ニューラルネットワークを提案する.TSDCAは,正規直 交変換行列を複数用いて入力データを圧縮し,次元圧縮後の特徴ベクトルが混合正規分布を確率密度関数に持つ隠れマルコフモデルに従うと仮定することで,入力時系列データの各クラスに対する事後確率を算出可能である.また,TSDCAのモデルパラメータはニューラルネットの重み係数として展 開しており,適切な圧縮と識別パラメータを学習によって獲得できる.これにより,非線形特性を有する時系列データに対して高精度な識別と学習時間の短縮が期待できる.実験では人工的に生成した時系列データを用いて従来の識別法や次元圧縮法と比較し,高次元データ識別への有効性を確認した. さらに脳波信号を用いた識別実験により,実データ識別への応用可能性を示した.
京都大学・大仲 智也,丸田 一郎,杉江 俊治
本論文は,知的PID制御をデジタル実装した場合の安定性と有効性について考察したものである.知的PID制御は制御対象モデルの詳細情報が不要,システムの特性変動後もパラメータの再調整が不要などの優れた性質を有するが,出力の高次微分情報を必要とするため,これを如何に実装するかという問題点がある.本論文では,微分器を単純に差分でデジタル実装した場合の知的PID制御系の安定性について解析し,安定性の一つの十分を与えている.また,数値例でこの制御系の有効性とパラメータの調整法について示している.最後に,知的PID制御系をデジタル実装した実機実験により,この手法の有効性を検証している.
■ 3次元位置・姿勢協調制御-有向グラフ構造における必要十分条件の導出-
東京工業大学・伊吹 竜也,畑中 健志,藤田 政之
本論文では,3次元空間上に存在する複数の剛体の位置・姿勢同期問題を考察する.
まず,制御対象として剛体運動モデルと剛体間の情報交換構造を表す有向グラフから成る剛体ネットワークを提案し,制御目的として剛体ネットワークの位置・姿勢同期を定義する.
また,位置・姿勢同期問題に関する先行研究の提案制御則および主要結果を紹介し,同期を達成するための情報交換構造が限定的であることを述べる.
つぎに,提案制御則がリーダ追尾型の情報交換構造をもつ剛体ネットワークに対しても位置・姿勢同期を達成することを示す.
さらに,リーダ追尾型に対する収束性解析および新たに導入する摂動システムの安定定理に基づき,提案制御則が位置・姿勢同期を達成するための情報交換構造の必要十分条件を導出する.
本論文の主な貢献は,3次元空間上の位置・姿勢同期問題に対してもベクトル空間上における従来の合意問題でよく知られているものと同じ必要十分条件を導出することである.
最後に,シミュレーションを行うことにより本解析結果の有効性を確認する.
[ショート・ペーパー]
■ 拡張現実感を用いたロボットのリアルタイム遠隔操作システムの開発-あかがね工業博2012トレジャーハンターロボットへの応用例-
新居浜工業高等専門学校・柏尾 知明,松木 剛志,出口 幹雄,
白井 みゆき,占部 弘治、栗原 義武,今井 伸明
本稿では,拡張現実感(Augmented Reality: AR)技術を用いた,ロボットのリアルタイム遠隔操作システムの開発について報告する.操作者は本システムを用いて,遠隔地のウェブカメラ画像と3D仮想物体の合成画像を確認しながら,インターネット回線やLANを介して,ロボットをリアルタイムで操作することができる.まず,UDPを用いたウェブカメラ画像の転送方法とARの応用方法について説明し,さらに,システムの応用例として,「トレジャーハンターロボットゲーム」(あかがね工業博2012出展)を紹介する.